スポーツファンは、アスリートを過去の名選手と比較し、最も優れた選手が誰かを語り合うことを好む。そうした人々の多くが、子ども時代に憧れた選手や試合の記憶を大切にしているが、実力という点でみれば、ほぼすべてのケースで、今日のアスリートは前世代の選手を上回っている。剛速球を武器とするリリーフ投手は2018年にこう語った。メジャーリーグ史上屈指の名選手であるベーブ・ルースが現代でプレーしていたとしても、「毎回、三振に打ち取れる」。
多少の誇張はあるかもしれないが、実際にあらゆる競技で、今日のアスリートのほうが体格が大きく、筋力やスピードも向上していることは否定できない。さらに指導、休養、食事、装備、準備のどの面においても、アスリートを取り巻く環境は以前より整ってきている。スポーツテクノロジーとスポーツサイエンスが進展し、栄養、回復、試合中の戦略、コーチング、運動技術などに関する新しい知見が蓄積されたことで、今日のアスリートは、25年前と比べても明らかに進化している。
この変化は、今日の最高経営責任者(CEO)に多くの示唆を与える。スポーツの世界から学び、自らのあり方を変えていくことが企業経営にも強く求められているのだ。この背景には、経営環境そのものが、急速に厳しさを増しているという事実がある。CEOは24時間365日、多くの場合は限られた情報のもと、一挙手一投足が常に注視される状況で、次々と現れる問題と脅威に向き合っている。そして異なる優先事項を持つ幅広いステークホルダーのそれぞれに対応するだけでなく、当然ながら、従業員からの期待や要求の高まりにも応えなくてはならない。
経営環境の変化は、避けられない流れである。テクノロジーは猛烈な速度で進化し、地政学的な環境も不安定さを増している。ひとたび企業がつまずけば、特にソーシャルメディアを通じて、厳しい評価が一気に下される。
2024年10月にマッキンゼーが行った21世紀のリーダーに求められる特性に関する調査では、前向きな姿勢、利他的なサーバントリーダー、継続的な学びと謙虚な姿勢、不屈の精神とレジリエンス、ユーモア、管理者としての責任感の6つの資質が必要な要件として挙げられた1。
調査後も引き続き、私たちは多くのCEOと対話を重ね、これらの特性を単なる理想として掲げるのではなく、「自らのものとして生きる」ために、実際にどのように課題を乗り越えているのかを探ってきた。
CEOとの対話を通じて明らかになったのは、今日の優れたリーダーは思考のあり方を大きく転換しているということである。これはトップアスリートが準備し、訓練し、競い合う際のあり方と重なる、まさに時代を画する転換とも言えるものだ。CEOとアスリートという2つの仕事にはいくつかの点において、強い共通性が見られる。そこで、偉大なアスリートが実践している5つの習慣を、ビジネスリーダーが自らの仕事に生かす視点から以下に紹介する。
目的意識をもって時間を使う
レブロン・ジェームズは、高校卒業後、2003年のNBAドラフトで全体1位指名を受けた、当時10代の天才である。そのドラフト組の中で、現在も現役でプレーしているのは彼だけだ。ジェームズが長年にわたり第一線で活躍し続けてきた背景には、才能だけでなく、時間を徹底して管理する姿勢がある。
試合当日のルーティンは厳格である。午前6時30分に起床し、冷水浴の後にウォームアップを行う。正午から午後2時までは昼寝を取り、その後試合会場へ向かう。午後3時30分にはストレッチを行い、マッサージを受け、さらにウォームアップを重ね、午後7時の試合開始に備える2。その日の夜は、深く質の高い睡眠を取る。睡眠時間は7~9時間で、就寝時はスマートフォンを使わず、部屋も暗くする3。こうした生活を、20年以上、毎シーズン繰り返してきた。報道によれば、ジェームズは心身のケアに年間100万ドル以上を費やしている。
優れたCEOもまた、時間を極めて緻密に管理している。あるテクノロジー企業のCEOは、目標を「1分当たりの成果を最大化すること」だと語った。この考え方がすべての人に当てはまるわけではないが、私たちの経験では、優れたCEOは例外なく、重要な業務を見極め、自分にしかできない仕事に集中し、ここぞという局面で最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えている。
自らの時間管理を支える取り組みは、ほかにもあるが、その1つが、最長12カ月先までを見通した「タイトだがルーズ」なカレンダーを設計することである。
これは、重要な会議をCEOの生産性が最も高い時間帯に集中させる一方で、あらかじめ予定を入れない時間帯も確保するという考え方だ。例えば、あるグローバルテクノロジー企業のCEOは、カレンダーの約20%を意図的に空けている。これにより、一息つく余裕が生まれるだけでなく、突発的に生じた状況にも柔軟に対応できる。
こうした高い規律を要するルーティンを維持するには、強力なサポートチームが欠かせない。通常は、カレンダー管理や出張や移動に関わる手配を担う専任の管理アシスタント1~2人に加え、全体を統括するチーフ・オブ・スタッフがこれを支えている。
最近、マッキンゼーでは、CEOが時間とエネルギーをどのように管理すべきかを整理したチェックリストを作成した4。かつては、長時間働いたり業務量を増やしたりすることで課題に対応しようとするやり方が有効だと考えられていたが、いまやそうした方法は通用しない。キャタピラーの元CEO、ジム・オーエンズは、「CEOにしか解決できない最重要課題を優先し、残りの業務は周囲に任せるべきだ」と語っている。そして、これを実現するうえで重要になるのが、重要課題に振り回されないための工夫である。USバンコープの元CEO、リチャード・デイビスは、これを「区分化」、すなわち課題を場面ごとに切り分けて考えることと呼んでいる。「区分化は不可欠である。あらゆる課題をすべての会議に持ち込めば、思考が分散し、その日の判断に支障をきたす」と述べている。
時間管理は単に予定を詰めたり整理したりすることではない。どの瞬間が本当に重要なのかを見極めることでもある。優れたアスリートと優れたCEOは、結果を左右する重要な瞬間を逃さず、最大限に生かすことで成果を上げる。ロジャー・フェデラーは、テニスの試合の約80%に勝ちながら、ポイントの獲得率は54%にすぎなかったと振り返っている5。実際フェデラーは相手より少ないポイント数で20回以上も試合に勝っている。勝敗を左右する場面で、決定的な得点を確実に重ねていたのである。
CEOも同様に、勝負どころを見極め、決定的な一手を打つべきタイミングを見極める必要がある。優れたCEOの中には、毎月あらかじめ1日を確保し、重要な情報を読み込み、分析に集中する人もいる。その目的は、その時々に生じる大きな変化や混乱に、腰を据えて向き合うことである。日常業務に追われて全体像を見失うことを防ぎつつ、状況に応じて戦略を柔軟に組み立てていくために、このような時間管理に取り組んでいる。
回復を戦略として捉える
回復は、スポーツトレーニングにおいて欠かせない要素であり、身体が本来の力を取り戻すための前提条件である。持久系アスリートの多くは、この回復を前提にトレーニング計画を組んでいる。ケニア出身で、オリンピックのマラソンで2大会連続金メダルを獲得したエリウド・キプチョゲも、その代表例である。彼は調整のために「ピーキングとテーパリング」と呼ばれる方法を取り入れている。これは、大会前に一時的にトレーニング強度を高めた後、数日から数週間かけて徐々に負荷を落としていくやり方だ。最後まで無理に追い込まないほうが、結果としてパフォーマンスが高まることがある。
オランダのオリンピック金メダリストであるスピードスケーター、マルク・タイテルトは、「20代前半にトレーニングをやり過ぎ、身体を限界まで追い込んでしまった」とマッキンゼーの取材で語っている6。彼はその経験をきっかけにトレーニング計画の立て方そのものを見直し、後に振り返って回復を重視する姿勢が「人生の新たな方向を見いだすきっかけとなった」と述べている。
回復には、トレーニングの調整以外にも、さまざまな方法がある。適切な栄養と水分補給、ストレッチ、フォームローリング、マッサージ、アイスバス、ヨガなども一般的に用いられている。ポルトガルの名ストライカー、クリスティアーノ・ロナウドは、筋肉の回復を促す高タンパク質、試合日に必要なエネルギーを支える複合炭水化物、そして全体的な健康を支える良質な脂質を、バランスよく取り入れた厳格な食事管理で、競技に必要なコンディションを維持している7。食事管理の一環としてグルテンフリーを取り入れていることでも知られるテニス界のノバク・ジョコビッチは、マインドフルネスの実践が精神面の強化につながったと述べ、身体トレーニングと同じくらい重要だと語っている8。
ここから得られる教訓は明確である。身体的・心理的な休息と回復が、最高のパフォーマンスを支える重要な要素だということだ。CEOにとってこれは、業務の中で回復の時間を計画的に組み込み、同時に業務外でも、運動や音楽、瞑想などを通じてエネルギーを取り戻し、その瞬間に最良の状態でいられる活動に取り組むことを意味する。
さらに、多くのCEOは、食事に注意を払い、睡眠の質を高め、アルコールの摂取を抑えている。目指すのは、無理なく続けられる持続的なバランスである。回復を意識的かつ体系的に取り入れなければ、必要な精神的・内面的な余力は長く保てない。
スポーツに例えれば、常に全力で走り続ければ燃え尽きるリスクがある一方、ゆっくりとした一定のマラソンペースだけを保っていれば、競争相手を一気に引き離す機会を逃してしまう。高い集中力を求められる局面と、意図的に立ち止まる時間を組み合わせて考えることが、最も現実的なアプローチである。
回復に意識的に取り組むことで、CEOは心身に余裕を持って人と向き合えるようになる。その結果、廊下で交わす2分間の会話も、リーダーにとっては一日の中のささやかな出来事にすぎないかもしれないが、周囲の社員にとっては、会社の使命や自分の役割を思い出し、前に進む力を得る忘れがたい瞬間になることがある。回復を大切にするリーダーは、結果として周囲にエネルギーを与える存在となる。
常に学び続ける
2019年、プロゴルファーのブライソン・デシャンボーはすでにPGAツアーで実績を残し、世界ランキング5位に位置していた。しかし、彼自身はこれで満足しておらず、それ以降、科学的なデータや分析に基づく新たなトレーニング手法を用いて、自身のゴルフスイングを一から見直し、プレースタイルを変えていった。
デシャンボーは食事も改め、タンパク質の摂取量を増やし、すでに鍛え上げられた体に40ポンド(約18キロ)の体重を加えた。その効果はすぐに表れた。ドライバーの飛距離は約20ヤード伸び、2021年にはスイングスピードでツアー首位となり、全米オープンを2度制した。最近では、競技生活を長く続けることを意識し、再び食事を調整するなど、取り組みを細かく見直している。
彼のこうした変化に、ほかのプロ選手も注目し始めた。デシャンボーのアプローチを取り入れる選手が増える中で、従来の大会コースではもはや選手の進化に十分対応できていないと指摘する分析者もいる9。
偉大なフィリピン人ボクサー、マニー・パッキャオについて考えてみよう。キャリア初期のパッキャオは、一発の強打でノックアウトを狙う攻撃型のボクサーだった10。しかし、トレーナーのフレディ・ローチの指導の下で、彼は得意としていた左のパンチだけでは限界があることを受け入れ、右のパンチの強化にも取り組むとともに、以前は平凡だったフットワークも大きく改善した。2人は互いに学び続けるチームとなり、新たな技術を身につけると同時に、対戦相手ごとに戦略を分析していった。その結果、パッキャオは20年以上にわたるキャリアの中で、史上最多となる階級数で世界タイトルを獲得し、ボクシング界の伝説的存在となった。
私たちがこれまで観察してきた中で、最も高い成果を上げているリーダーは、自分を最も多くの知識を持つ人間だとも、最も賢い人間だとも考えていない。むしろ強い好奇心を持ち、日常的に読書を通じて学び続けている場合が多い。
この姿勢は、学びを自らの成長の原動力と位置づけていることを意味する。
彼らは他分野や他業界、さらには競合からも学ぼうとし、知識の不足を補うために第一人者を探し、新たな洞察の源を社内外に求めている。若手社員や顧客のブログも、その重要な情報源の1つとなる。こうしたリーダーは常に、新しく、従来とは異なる視点からの洞察を見つけ出そうとしているのだ。そして、自ら学ぶ機会を意識的につくる。例えば、取締役会とともに現場を訪れたり、別の企業の取締役会に参加したりする。マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラは、この姿勢を次のように表現している。「すべてを知っている人より、学び続ける人のほうがうまくいく」11。
データとアナリティクスを活用する
フォーミュラ1(F1)レースは、ビジネスと多くの共通点を持っている。何百人もの人が、1人のトップドライバーを中心に、チーム全体の成功のために力を尽くすという点で、究極のチームスポーツと言えるかもしれない。F1チームは、明らかなものから見えにくいものまで、あらゆる脅威やリスクに目を配らなければならない。この点、まさに今日のCEOを取り巻く状況とも重なる。
F1チームは、テクノロジーを駆使してリスクを管理している。F1カーには300以上のセンサーが搭載され、速度、タイヤ圧、燃料流量、温度、エンジン性能といった車両データに加え、心拍数や血中酸素濃度など、ドライバーの身体データも測定している。ステアリングホイール自体が、遠隔でデータをやり取りするインターフェースとなっている。1レースで最大10億件に及ぶこれらのデータはリアルタイムで分析され、問題の早期発見や、ドライバーやピットクルーへの戦略変更の指示に活用される。さらにレースごとに得られたデータをもとにシーズンを通じて設計改善が重ねられ、1周あたり1秒短縮されることもある。勝敗がコンマ秒で決まる競技において、これは極めて大きな意味を持つ。
これほどテクノロジーが進んだF1においても、人の役割は依然として重要であり、ドライバーは卓越した身体能力と瞬時の判断力を求められる並外れたアスリートである。一方で、データとアナリティクスは、そうした個々の才能を最大限に引き出し、チーム全体のパフォーマンスを底上げするために欠かせない存在となっている。
同じことはビジネスにも当てはまる。現代のCEOは、自身やチームの状況をデータを通じて日常的に把握している。私たちが知る複数のCEOは、毎週金曜日にチーフ・オブ・スタッフと時間を取り、自身とチームのパフォーマンスやコンディションに関するデータを確認し、必要な改善策を検討している。成果を上げているCEOは、自分自身だけでなく、経営陣全体のデータやアナリティクスに対する理解を継続的に深めている。
成果を上げているCEOは、AIやデータアナリティクスをはじめとするテクノロジーを活用し、業務の進め方を見直し、競争優位を築き、企業全体の水準を引き上げている。スピードが重視される時代において、正しい情報をいかに迅速に集め、分析し、的確な意思決定につなげられるかを常に問い続けている。アナリティクスを通じて、仕事の進め方や判断の質を高め、組織を勝てる位置に導くことを目指している。データ活用は、CEO自身のコンディション管理にも生かされている。多くのリーダーがウェアラブル端末を身につけて得られるデータを活用し、自身の状態やパフォーマンスを把握し、改善に役立てている。
適応力と回復力を備える
シモーネ・バイルズは、体操競技において信じがたい跳躍力と演技で名を馳せてきた。しかし、2021年の東京オリンピックでは、深刻な精神的危機に直面した。彼女は「ツイスティーズ」と呼ばれる、空間認識を失い、思いどおりに身体を制御できなくなる状態に苦しんでいた。バイルズ自身の言葉を借りれば、「自分の身体と心が思うように反応しない感覚だった」12。ツイスティーズの状態で競技を続けることは極めて危険であり、その結果、彼女はいくつもの種目を棄権するという決断を下した。
それでもバイルズは、チームメートを応援し続ける一方で、競技への復帰に向けてすぐに練習に戻り、平均台で銅メダルを獲得した。大会後には十分な休養を取り、トレーニングに専門的なケアを取り入れた。その取り組みは効果を表し、2024年、東京大会以上の注目を集める中で、彼女はパリ大会で米国チームを金メダルに導き、自身も4個のメダルを獲得した。
一世代前のアスリートでありながら、現代でも十分に通用したであろうモハメド・アリを思い起こしてみよう。アリは並外れた才能を持ち、当時としては例を見ないほど厳しいトレーニングを積んでいた。しかし、彼を特徴づけていたのは、それ以上に、不屈の精神であった。彼は有名な言葉を残している。「倒されても負けではない。倒れたままでいれば負けなのだ」。
現代のCEOも、世界的危機や急速に変化する市場環境を乗り越えるために、同様に、時にはトップアスリートに匹敵するほどの回復力を求められている。打たれ強さは、職務上欠かせない。どのようなテーマであっても、厳しい批判や感情的な声は必ず存在する。リーダーは批判に耳を傾けながらも、極端な意見に振り回されないように選別し、そこに必要以上のエネルギーを費やさない姿勢を保つ必要がある。
JPモルガン・チェースのCEOであるジェイミー・ダイモンは、困難で予測不可能な課題に向き合う姿勢について、次のように語っている。「人はたとえ失敗しても、それを認め、必要な是正措置を取る覚悟があることを示す必要がある」13。
エヌビディアのCEOであるジェンスン・フアンは、回復力を経営の考え方の中心に据え、「非常に高い期待を持つ人ほど回復力が低い。しかし、成功には回復力が欠かせない。どう教えればよいかは分からないが、困難を経験することは欠かせない…。私は社内で『痛みと苦しみ』という言葉をよく使っている」と述べている14。
優れたリーダーは、強いストレスの中でも逃げずに向き合い続ける。状況を冷静に見極め、何がうまくいかなかったのかを学び、次に進む力へと変えていく。感情的に高ぶりすぎることも、過度に落ち込むこともない。こうした姿勢こそが、増え続ける逆風や危機に向き合いながら回復力を鍛え、21世紀において持続的に成果を上げるリーダーとなるための道である。どのような局面にあっても、謙虚さを保ち、価値ある失敗を称え、常にチームメンバーを支え続ける。
1990年代半ばにマッキンゼーに入社した当時は、強引で独善的なCEOが主流だった。彼――ほぼ例外なく男性であった――が、自らのタフさを誇るのを耳にすることも珍しくなかった。今日、高い成果を上げるリーダーは、武勇伝ではなく、日々のフィットネス習慣や睡眠アプリ、バイオメトリクス(生体データ)について語ることのほうが多い。自らを過度に誇示するのではなく、回復力を鍛え続ける長い道のりについて率直に語る。
旧来のやり方から新しいやり方へと移行するには時間がかかる。しかし、今日決意し、一歩ずつ努力を積み重ねることこそが、CEOにとってもアスリートにとっても、前に進むための唯一の道である。