21世紀型リーダーシップの極意-次世代への継承からリーダーシップファクトリーの構築まで

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今日の分断された世界においてグローバルな組織を率いることは困難であり、これまで以上に難しいものになっている。新型コロナウイルスの発生や地政学的な緊張の高まりにより、リーダーが直面する不確実性や混乱は増加している。そしてこれには、彗星の如く現れた生成AIのような革新的技術やエネルギーの転換のみならず、自律性・権限付与・柔軟性・機動性を求めるグローバルな労働人口も含まれるのだ。

こうした変化と混乱の数々は相互に関連して複合的な影響を及ぼしており、リーダーは限られた時間で迅速に対応することが求められている。私たちの推計によれば、十年前には経営陣が一度に取り組むべき課題の数は4~5件程度だったが、現在ではその数は倍増している。

マッキンゼーが世界中のCEOやビジネスリーダーと関わり、議論を重ねる中で、強靭でパフォーマンスの高い組織を構築する上での最大の課題が明らかになった。それは、この不確実な21世紀のビジネス環境において求められるのは、単に生き残るだけでなく、卓越することができるリーダーを十分に揃えることである。今日の組織に必要な個人の資質、ベストプラクティス、リーダーシップ開発に必要なアプローチは、一昔前のものとは著しく異なる。

本稿では、21世紀のリーダーに求められる資質とは何か、そして、次世代のマネージャーを育成する「リーダーシップファクトリー」をどのように構築すべきかを探る。リーダーシップ開発を組織の中核的な能力と位置づけ、これからのリーダーに求められる要件を積極的に満たしていく組織は、組織全体のレジリエンスを高め、次にどのような混乱が訪れようともそれを乗り越える力を身に付けることができるだろう。

21世紀型リーダーシップの特性:求められる個人の資質

世界が複雑さを増すにつれ、リーダーシップ開発に対する認識やアプローチも変化していかなければならない。 私たちは企業、産業、地域のリーダーと取り組んできた経験や独自の長期的な研究から、今日の不確実な環境で卓越するために最も必要とされるリーダーシップの資質は次の6つであると考えている。

  • 前向きな姿勢、自己バランス、そしてインスピレーション: リーダーが自身の心身の健康を守るためにはこの3つの要素が必要となる。自分を突き動かすものを明確に理解していなければ、学びや指導に対する意欲を失ってしまう。マッキンゼーの最近の調査でも、パンデミックを経た労働者は、年代を問わず、リーダーに対してより多くの関わり、信頼性、インスピレーションを求めており、こうした要素への意欲がリーダーシップ資質において極めて重要なものになっている。1
  • 利他的なサーバントリーダー(支援型リーダー):  私たちが支援してきた中で最も成果を上げているリーダーは、自分自身のことではなく他者の行動、活動、成果など、チームや他者の成功に注力している。 それはつまり、組織の使命と本質的な意義、そして持続可能なインパクトに注力しているということである。約1000人を対象としたマッキンゼーの最近の調査によれば、70%が自分の存在意義や目的を大きく形作っているのは仕事であると回答しており、このようなリーダーシップのアプローチは、より重要なものになっている。2
  • 継続的な学びと謙虚な姿勢: リーダーはリスクを恐れてはならず、飽くなき好奇心を持ち、失敗から学ばなくてはならない。私たちが支援してきた中で最も成果を上げているリーダーたちは、決して自分がその状況に精通した専門家であるとか、最も賢い人間だとは考えていない。彼らの持つ特別な能力は、謙虚さ、そして間違えることを恐れず、逃げない姿勢そのものだ。例えば、マイクロソフトのサティア・ナデラは、同社のあらゆる階層において、透明性の向上と、物事を熟知していることより学ぶ姿勢を重視することを提唱し、同社の企業文化の変革を推進した。3
  • 不屈の精神とレジリエンス:  時に困難なことだが、リーダーは混乱に直面しても冷静さを保たなくてはならない。周囲の優れたアイデアを吸収する能力に長けているが、必要なときに厳しい決断を先延ばしにすることは決してない。 困難な状況に直面しても、彼らは逃げずに状況の根本原因を冷静に分析し、行動を修正し、感情的にならず、前進する。高望みもせず、卑屈にもならない。最新のマッキンゼーの組織健全性調査によると、決断力があり、その決断に責任を持つリーダーがいる企業は、健全性が同業他社よりも4.2倍高いことが明らかになっている。4
  • ユーモア:  私たちが調査した優秀なリーダーは、深刻な問題に対処する際にもユーモアを交えた会話が重要であることを認識している。ユーモアは、チームの結束を強め、ストレスを緩和し、グループ全体の創造性を引き出してくれる。実際、多少なりともユーモアのセンスがあるリーダーは、そうでないリーダーよりも27%もやる気と意欲を引き出すことが研究で示されている。5 ユーモアのあるリーダーと働く社員は、そうではないリーダーと働く社員よりも意欲的に取り組む可能性が15%高く、創造性が求められる課題に取り組むチームの創造性は2倍になる。
  • 管理者としての責任感:  優れたリーダーは長期的な視点を持つ。そして自分自身を「現時点での責任者」として管理する役割を担っていると自覚している。市場は変化し、顧客のニーズは移り変わり、リーダーシップの役割も組織と共に進化していくことへの理解を前提として、組織全体でのリーダーシップ能力の育成に積極的な取り組みを推進する。最終的に自分の就任時よりも強靭で、時代に対応した、持続可能な状態に導くことを目指している。

21世紀型リーダーシップのあり方:初期のベストプラクティス

私たちの研究と経験から、経営のいくつかの主要分野においてリーダーシップの在り方を変える必要があることが明らかになってきている。リーダーは、利益と現状維持を念頭に置いて経営するのではなく、ビジョンと可能性 (イノベーション) をすべてのステークホルダーに伝える方法についても考える必要がある。価値創造については、自社の希少性や既存の資産から収益を上げるという観点からだけではなく、さまざまなパートナーとの共創の機会として考えなければならない。単純な指揮命令や管理ではなく、協働やコーチングが求められる。そして、リーダーの「誠実さ」は、単なる好ましい特性ではなく、現代のビジネス環境においては、従業員や顧客、さらには関係者全体から求められる必須条件になっている、

21世紀型のリーダーシップのあり方の定義について多くの企業は初期段階にあるが、すでにいくつかのベストプラクティスが明らかになってきている。

  • すべての主要な利害関係者と徹底的かつ粘り強く関わる: 業績の高い企業は、建設的な対話や討論により、競合他社の一歩先を行くことができるだろう。そのために、リーダーは幹部間で、現場スタッフと、取締役会と、組織全体で徹底的な議論を促す必要がある。リーダーは、こうした対話を促すために、プレモータム (事前リスク診断)、レッドチーム・ブルーチーム演習 (対抗チーム演習)、ホワット・イフ・セッション (仮定検討セッション) など、多くの実績ある手法を活用することができる。 こうした手法を、特に覆すのが難しい意思決定の際に活用することが重要だ。 また、この意思決定には、率直さ、トレードオフを考慮する意欲、決断する勇気も必要となる。 そして、いったんそうした意思決定がなされたら、リーダーは明確にそれを支持しなければならない。リーダーは情報過多を切り抜け、具体的な成果を明確に示し、チームが測定し実感できる、簡潔で真摯なメッセージを練り上げなくてはならない。
  • チームを深く関与させる: リーダーは、全員が会社のビジョンと戦略に十分に賛同し、自らの意思で貢献する状態を作り上げる。これは単に賛同を得るということに留まらず、組織のミッションを遂行するよう駆り立てられる。深く関与するチームメンバーは、自己規律があり、自己を動機づけ、基準を徹底し、基準からの逸脱を自ら修正する可能性が他の人よりも高い。そして何よりも重要なのは、リーダーが、その深い関わりと正しい方向性を促す行動、動機、プロセスを継続的に再確認し、必要に応じて修正することだ。
  • 迅速な対応を可能にする業務モデルを構築し、業務のペースを確立する:  リーダーは、従来のマトリクス組織や報告ラインを通じて経営するのではなく、迅速な対応を可能にする業務モデルとプロセスを模索することが望ましい。明確な意思決定権限、少数の官僚的階層、テクノロジーを活用した情報共有などが挙げられる。合理的にプロセスを標準化し、現場のリーダーを直接関与させ、行動指針や研修などを通じてベストなプラクティスを制度化する。そして、デジタルダッシュボード等のツールを通じて情報を共有することを目指す。 それにより、パフォーマンスの優位性が生まれ、生産性が向上し、説明責任が浸透し、意思決定が大幅にスピードアップする。
  • 信頼の文化を重視する:  思想家チャールズ・H・グリーンが提唱する信頼(Trust)の方程式は、Trust(信頼) = Credibility(信憑性)X Reliability(誠実性) X Intimacy(親しみやすさ) ÷ Self-orientation(自己中心性)である。6 米国の経済学者であり政治家でもあるジョージ・シュルツは、百歳の誕生日に次のように記している。「信頼は国家の基盤だ。信頼があれば、それが家庭であろうと、学校であろうと、コーチの部屋であろうと、オフィスであろうと、政府機関であろうと、軍隊であろうと、よいことが起こる。信頼がなければ、よいことは起こらない。それ以外は取るに足らないことだ」。7 21世紀のリーダーに求められるのは、信頼の方程式に基づき、組織の強みと弱みを分析し体系的に強化・育成することである。

21世紀型リーダーシップの構造:リーダーシップファクトリー

CEOやリーダーシップチームに、目標達成や潜在能力の最大化を妨げる最大の課題を尋ねると、多くが人材と現場のリーダーシップチームを挙げる。特に、現在の混乱を乗り越えるだけでなく、将来のビジネス環境の変化に備えるためにも、組織内でリーダーシップ能力を育成することが急務だと指摘している。

一部のリーダーシップスキルは研修で教えることができるが、概して最も効果的なのは、実務を通じた学びだ。具体的には、新入社員の評価や選抜、研修の場面、またメンター制度や見習い制度、ロールモデルやコーチングを通じた実践的なやり取りが重要となる。

1980年代、マッキンゼーの元グローバル・マネージング・パートナーであるロン・ダニエルは、まさにこの状況を表現するために「リーダーシップファクトリー」という言葉を考案した。つまり、社員がお互いに時間を投資し、現場で学び、定期的にフィードバックを提供し、個人的な洞察や集団の洞察を共有することで、優れたリーダーが生まれるというものだ。彼が40年ほど前に思い描いた「ファクトリー」モデルは、現在もマッキンゼーで活用されており、マッキンゼーは、2024年に「将来のリーダーに最適な企業」として第1位に選出されている。8 また、GE、IBM、P&Gなどの組織を通じてその手法は進化し、これらの企業はいずれも独自のリーダーシップ育成機関を創設している。

グローバルリーダーやチームと仕事をする中で、私たちは、リーダーシップファクトリーやリーダーシップ開発カリキュラムでリーダーが活用できる指針として、ファクトリーモデルの青写真に次の要素が新たに加わったことに気づいた。

  • リーダーシップの資質を設定する:  現在のリーダーシップチームは、チームと組織に必要な資質を明確に定義し、また、リーダーシップとは何かを理解する手助けをしなければならない。リーダーシップとは、コンセンサスを得ることではなく、足並みを揃えることだ。人気者になることではなく、正しく関わる。チームから距離を置くことではなく、一人で厳しい決断を下す。これらの相反する要素に対応し、バランスを取るための気質が求められる。リーダーは孤独だ。自信、不屈の精神、そして様々な側面を是々非々で評価する能力が大きく求められる。これについて、ダグラス・マッカーサーは次のように語っている。「世界は常に、勇敢な者に対する陰謀を張り巡らせている。それは古来の闘争 - 一方に群衆の喚声、他方に自らの良心の声が聞こえる」。9
  • 今すぐ始める:  リーダーは、将来有望なマネージャーに試練を与え、敢えて不安定な立場に置き、適切なメンタリングと継続的なコーチングを提供することが望ましい。
  • 全体的な能力構築方法を再考する: 現リーダーシップチームは、将来のリーダーのために個別に集中的なセッションを設けるべきだ。 人事部が運営したり、自己啓発コースで提供したりするのではなく、経営幹部がこれらのセッションを主導する。幹部が、将来のリーダーたちと意見を交換し、彼らの最大の課題について率直に語らせ、それらの対処方法を共に決定する。教訓は、ビジネスエコシステム内のどこからでも得ることができる。例えば、ウェンディ・コップがTeach for Allで成功を収めた大きな理由は、彼女が世界中のパートナーを信頼する意思を持っていたことにある。彼女の組織は、明確かつ統一されたリーダーシップ原則 (共通の目的へのコミットメント、変化の理論、価値観、ビジョンなど) を確立した。そして、指導者が互いに学び合い、自国や自らの状況に教訓を適用できるパートナーシップと研修のネットワークを構築した。「草の根の取り組みを支援しながら、チームがグローバルな視野を持てるように手助けすることは、非常に大きな力となります」と彼女は語っている。10 全てのリーダーシップファクトリーがこの点を考慮すべきだろう。
  • まず自らを導く: 現在のリーダーは、新しいリーダーやリーダーを目指す人々が自己管理を行い、最高のパフォーマンスを発揮できるよう、時間と労力を割くべきだ。自己改善の重要な出発点となるのはフィードバックだ。退役した米海軍大将のエリック・オルソンは、米特殊作戦軍 (US Special Operations Command) を率いていた際に、感情をあまり表に出さないことで知られる兵士たちのグループを統率し、このことを実感した。オルソンは、『The Journey of Leadership: How CEOs Learn to Lead from the Inside Out』 (Portfolio/Penguin Random House、2024年9月) の中で、兵士たちを9ヵ月間かけて聞き取り調査したところ、感情的な「ほころび」がいくつか見つかったと述べている。11 そのようなフィードバックを受けて、オルソンとチームは方針を一部変更し、リソースの優先順位を決め、栄養士、理学療法士、心理学者などによるサポートを増やした。健康と即応性は家庭に根ざしている点を考慮し、ネイビーシールズとその家族の結束力、効率性、士気を向上させることを目指した。
  • リーダーに権限を与え、各自のニーズに合わせた自己主導型の学びを構築する:  組織は、自己・チーム・組織の主導、そしてこれら3つすべてにテクノロジーを活用することなど、さまざまなリーダーシップに関する研修を提供すべきだ。 同僚やチームメンバーからの継続的かつ率直なフィードバックも、やはり重要となる。 これにより、新しいリーダーの自己認識を高め、自己修正に向けた歩みを促し、組織全体にわたって育成とメンタリングの機会を生み出すことができる。

21世紀型リーダーシップを育むCEOの新たな役割: チーフ・タレント・オフィサーとしての使命

21世紀型リーダーの育成を促進するため、今日のCEOは自らをチーフ・タレント・オフィサー (最高人材責任者) とも捉えなくてはならない。組織内の潜在能力の高いリーダーを見極め、緊密に連携し、職位が数階層下のマネージャーとも個人的なつながりを持つ必要がある。

また、組織内の異端児、つまり、意図的であるか否かに関わらず、従来のプロセスや手順から逸脱する可能性のあるマネージャーを守ることにも気を配るべきだろう。 こうした人材こそが、組織を革新的な未来へと導くリーダーとなる可能性があるのだ。

CEOは、リーダーシップファクトリーにおける模範となり、全員に最高水準のパフォーマンスと生産性を求めることが望ましい。 個人的なエピソードや経験を共有することで、社員たちを鼓舞し、巻き込むことができるだろう。


そして最後に、CEOは一歩下がり、適切なパフォーマンス管理システムがリーダーシップファクトリーを支えていることを確認しなくてはならない。これらのシステムは、ここで取り上げた21世紀のリーダーシップの資質を反映し、また、説明責任、権限の付与、迅速性を重視して設計されていることが望ましい。こうしたシステム的な変化がなければ、リーダーシップファクトリーは本来の力を発揮できず、成功に最も必要な文化の衰退やスキルの低下を招く可能性さえある。

今日のグローバルリーダーにとって唯一確かなことは、今後も不確実な状況が続くということだ。そのため、リーダーが過去に成功したやり方、すでに時代遅れとなったビジネス慣行や儀式に固執するのはリスクを伴う。リーダーにとって、チームや社員、その他の主要なステークホルダーと協力し、リーダーシップの新しいルールを作る方が得策となるだろう。

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