はじめに
夜、何を観ようか迷っているだけで、気づけば随分な時間が過ぎていた──そんな経験や、新しい番組や映画を探して、テレビとスマートフォンの間をせわしなく行き来した経験がある人なら、自分のアテンション(関心・関与)をめぐって、いかに多くのメディアがしのぎを削っているかを、身をもって知っているはずである。
メディア企業、コンテンツ制作者、マーケター、ブランド企業は、消費者のアテンションをめぐる熾烈な競争を注視してきた。そしてその多くが、それを「消費」をめぐる競争と同一視し、視聴時間やリーチした視聴者数といった指標を比べることに終始してきた。
しかし、消費された時間の量や消費者の数にばかり着目していては、より重要な論点、すなわち消費された時間の「質」を見落としてしまう。消費者のアテンションは、そのすべてが同じ価値を持つわけではない。アテンションエコノミー(関心経済)を構成する20の主要メディア領域では、消費量や収益化の水準も大きく異なる。その差を生む主な要因の一つは、アテンションの度合いの違いにある。
マッキンゼーの今回の調査は、消費者のアテンションに関して、メディア業界がこれまで十分に捉えきれていなかった側面に光を当てるものである。マッキンゼーは、世界の消費者7,000人を対象とした詳細な調査(うち米国の3,000人が本レポートの基礎)に基づき、アテンションの価値を構成する要素全体を明らかにする「アテンション関数」を構築した1。アテンションは、単に費やされた時間の量ではない。集中度と消費目的によって生み出される「価値ある時間」の量なのである。(調査の詳細については付録を参照)
メディアの収益化に関するこの新たな考え方には、アテンションを価値あるものにする要因、アテンションの収益化効率が高いメディアの種類、消費者セグメントごとのメディア利用行動のあり方、そしてメディア企業がアテンションエコノミーで競争する際に考慮すべき戦略と問いが含まれる。(McKinsey.com のインタラクティブ計算ツールを利用すると、メディアの種類やその他の要因に応じたアテンションの価値を試算できる)
消費者のアテンションは、そのすべてが同じ価値を持つわけではない。マッキンゼーは、その理由を解き明かす「アテンション関数」を構築した。
分散する消費者のアテンションの現状
消費者のアテンションを引き付け、維持するために乗り越えるべき課題は何か?それは、本質的には「需要」と「供給」の問題である。消費者が利用できるコンテンツの量と多様性は、かつてないほど拡大している。一方で、動画、音声、ゲーム、印刷物、ソーシャルプラットフォーム、ライブイベントなど様々なメディアやエンターテインメントに費やせる時間、あるいは費やしたいと思う時間は有限である。
過去10年間で、消費者がコンテンツを観たり、聴いたり、読んだり、あるいは何らかの形で接触する1日当たりの総時間はほとんど伸びておらず、年率1~2%程度の増加にとどまっている。同時に、制作・出版・配信における技術革新、ユーザー生成コンテンツの台頭、有料コンテンツの急増により、目がくらむほど多くの選択肢が生まれている。Spotify にはプロ制作者の50倍にも上るアマチュア投稿者が存在し、YouTubeでは昨年、従来型テレビネットワークと動画配信サービス全体を合わせた量の2万5,000倍に相当する時間のコンテンツが制作された。また、新しいテレビシーズンや映画新作の公開は、その前に作られたほぼすべてのシリーズや映画も提供されている同じプラットフォーム上で、限られた視聴時間を奪い合っている。
増えているのはコンテンツだけではない。それを消費するためのデバイスも増えている。しかも、多くの場合、複数のデバイスが同時に利用されている。世代を問わず、圧倒的多数のメディア消費者(ベビーブーム世代でも約3分の2に上る)は、テレビを観ながらインターネットやアプリを日常的に閲覧している。近年では、短くなった消費者のアテンション持続時間に対応あるいは助長する形で新しいコンテンツが制作されるケースが増えている。実際に、番組制作の幹部が脚本家に対し、「視聴者は同時に2つのスクリーンを見ている前提で考えるべきだ」と伝えているという話もある。メディアのマルチタスクは仕事時間にもプライベートにも広く浸透しており、米国人は平均して1日約13時間、メディアに接している2。
当然ながら、コンテンツ、プラットフォーム、デバイスの爆発的な増加は、消費者全体の関心を大きく分散させた。その結果、人々の変化し続けるメディアへの接点を企業が効果的に収益化することは、これまで以上に難しくなっている。実際、近年のメディア収入は、インフレ調整後では概ね横ばいにとどまっている。ソーシャルメディア、動画配信サービス、デジタル音声などで消費量が拡大している一方、ケーブルテレビ、従来型の印刷出版、映画館、物理媒体が生み出していた水準の消費者支出や利益には至っていない。デジタルメディアは総じて、消費量のシェアに比べて収入や利益のシェアが小さくなりやすい構造にある(図表1)。
今回分析対象とした、消費者のアテンションを奪い合う20の主要メディア領域において、消費時間1時間当たりの価値は、高い価値を生み出したライブスポーツの33ドル、遊園地の24ドル、ライブコンサートの17ドルから、低い価値にとどまったデジタル音楽の0.12ドル、ラジオの0.11ドル、ポッドキャストの0.05ドルまで幅があった(図表2)。ソーシャルメディアとソーシャル動画は、収益化の面で最も急成長している領域の一つであるにもかかわらず(2024~2028年の1時間当たりの収入はそれぞれ年率10%、7%で成長すると予測)、現在は1時間当たり0.25ドルしか収益化できておらず、非ライブメディア群の中位に位置している点は注目に値する。これに対し、紙の新聞、雑誌、書籍といったレガシーメディアの収益化水準は低下し続けてはいるものの、依然としてライブイベントやゲームに次いで高い水準を維持しており、デジタルメディアを大きく上回っている。
スポーツイベント、遊園地、ゲーム、そして従来型のリニア動画は、アテンションを最も効果的に収益化している領域であり、消費量に対する1時間当たりの収入が最も大きい(図表3)。メディア事業者は、このうち最初の3つの領域に多額の投資を行っており、Universal社のEpic Universeのような新規事業も、高い収益化水準の恩恵を受けると見込まれている。
レガシーメディアは、収益化水準の低下から「効率的収益化フロンティア 」から後退しつつあるが、デジタルメディアは、収益化水準を高め効率的収益化フロンティアに近づきつつある。収益化水準は同じメディア領域の中でもばらつきがあるが、企業がどのメディア領域で事業を展開するかが、アテンションを収入・利益にどれだけ効果的に転換できるかを大きく左右する。
アテンションの価値推計に欠けていたもの
なぜ、メディアごとの収益化水準にこれほど大きな格差が生じるのだろうか。その一因としては、業界構造やコンテンツの希少性、消費者属性の違い、さらにはメディアごとの広告効果の差異といった、従前から知られている要因がある。
しかし、マッキンゼーの今回の調査によると、消費者価値、プラットフォームの成熟度、業界構造といった従来型の商業的要因、すなわち「コマーシャル指数(commercial quotient, CQ)」だけでは、アテンションの収益化水準のばらつきの約3分の2しか説明できないことが明らかになった。
残りの約3分の1を左右しているのが、消費者のアテンションの「質」、すなわち「アテンション指数(attention quotient, AQ)」である。これはこれまで、メディアの収益化をめぐる議論において十分に注目されてこなかった要素である。
マッキンゼーは、米国の消費者3,000人を対象とした調査を基に、この2つの指数を組み合わせることで、消費者が様々なメディア形式、そしてそこで接するコンテンツやブランドに費やす時間の「真の価値」を測定する「アテンション関数」を構築した(図表4)。この関数は、非ライブメディアにおける収益化のばらつきの4分の3以上を説明することができる4。
アテンション指数は、主に2つの要素から構成される。一つは、消費者がコンテンツにどれだけ能動的に関与しているかを示す「集中度」であり、もう一つは、「なぜそのコンテンツを消費するのか」という「消費目的」である。これらを組み合わせることで、広告収益と非広告収益の双方を含めた収益化水準を高い精度で予測することができる。
集中度
マッキンゼーの調査から、消費者の集中度がメディアによって「どこで」「どのように」異なるのかについて、いくつかの重要な知見が得られた。
- 現場でのリアルな体験は最も高い集中度を引き出す。例えば、映画館で上映中にスマートフォンで動画を見始めたら隣の人がどのような反応を示すかを想像すれば、これは決して意外なことではないであろう。
- 書籍(紙・デジタルを問わず)は、ライブ体験に匹敵するほど高い集中度を生み出している(高い集中度を示した人の割合: 書籍81%、ライブ体験71〜88%)。これは、新聞・雑誌など他のテキスト系コンテンツ(62%)や、他の多くのエンターテインメント形式を大きく上回っている。
- 家庭用ゲーム機向け・PCゲームは、ライブ体験の集中度レベルに唯一迫るデジタルメディアである(高い集中度を示した人の割合: 73%)。これは、他の動画系コンテンツを大きく上回る数値であり、次点の動画配信(57%)を引き離している。
- デジタル領域では、「他者と共に楽しむ共同体験」であることが集中度と相関している。ゲームや配信動画はデジタルメディアの中でも共同体験性が高く(消費時間の約40%が他者と一緒に行われている)、ソーシャル動画やモバイルゲームのような個人で楽しむメディアよりも高い集中度を引き出している。
- 同じメディア形式でも、サービスの種類やプラットフォームによって集中度には大きな差がある。例えば、同じビデオ形式でも、動画配信サービス、ケーブルテレビ、FAST5、ソーシャル動画順に集中度が低下する。また、プラットフォームによっても集中度は異なる(例えば、一部の動画配信サービスは、他社のサービスに比べてはるかに高い集中度を引き出している)。
- 若年層の集中度が低いわけではない。単に注目するメディアが異なるだけである。Z世代とベビーブーム世代は、平均的な集中度自体はほぼ同水準であるが、集中を向ける先が異なる。Z世代はゲームをプレイする際に高い集中度を示し、その水準はベビーブーム世代が新聞を読む際の集中度に匹敵する。最も大きな差が見られるのはライブスポーツ観戦であり、ベビーブーム世代の方がZ世代よりもはるかに高い集中度を示している。ただし、テレビでライブスポーツを視聴する場合には、Z世代の方が集中度はわずかに高い。
- 総じて、集中度が高い消費者ほど支出額も大きくなる傾向がある。消費者全体で見ると、様々なメディアへの集中度の平均が10%上昇するごとに、それらメディアへの支出は17%増加する。また、集中度が上位25%に入る消費者は、下位25%の消費者に比べて2倍の金額を支出している。
消費目的
メディア消費の主たる目的、すなわち「消費目的」は、概ね5つのカテゴリーに分類される。以下に、主な消費目的と、その消費目的で消費される代表的なメディアを、価値の高い順に挙げる6。
- 「自分の好きなものを楽しむため」
このカテゴリーでは、ライブコンサートや音楽フェスティバル、テーマパーク、スポーツイベント、映画館といった現場のリアル体験が主体となる。紙の書籍やオーディオブック(紙の書籍に比べるとはるかに小さい割合だが)も、主に「好きだから」という理由で消費されており、特定のニッチな動画配信サービス(主要7プラットフォームではなく特定のジャンルにフォーカスしたものなど)も同様である。デジタル音楽も主に「好きだから」という理由で消費されるが、「BGMとして」の利用も比較的多い数少ないメディアでもある(「好きだから」が34%に対し、「BGMとして」が20%で、BGMとしての利用率はラジオに次いで高い)。
- 「学びや情報収集のため」
新聞、雑誌、ポッドキャストは、この目的で利用される割合が特に高いメディアである。加えて、紙の書籍、オーディオブック、リニアケーブルテレビ、YouTube(Instagram Reels や TikTok を除く)も、この目的で利用される割合が高い。
- 「社会的つながりのため」
ソーシャルメディア、とりわけFacebookでは、これが主たる消費目的となっている。ソーシャル動画(Instagram Reelsや TikTok を含むが、YouTube は除く)、ライブイベント、ゲームも、この目的で利用される割合が高い。
- 「軽い娯楽やリラックスのため」
ケーブルテレビ、動画配信サービス、ソーシャル動画、モバイルゲーム、家庭用ゲーム機向けゲームは、主にこの目的で利用されている。そのうち、動画配信サービスと家庭用ゲーム機向けゲームは、「好きだから」という理由でも利用される割合が高い。なお、アテンション関数において、「軽い娯楽やリラックス」と「社会的つながり」は同程度の収益化水準を持つと推定されている。
- 「BGMとして楽しむため」
ラジオは、主にこの目的で利用されるメディアである。加えて、デジタル音楽、ポッドキャスト、ケーブルテレビも、この目的で利用される割合が高い。
従来の商業的要因にアテンション指数を加えることで、メディア消費1時間当たりの収入を予測する精度がさらに向上し、あるメディアがなぜ他よりも収益化に優れているのか、また収益化水準が将来的にどのように変化し得るのかについても、有益な知見を得ることができる(図表5)。
例えば、動画配信サービスのように、アテンション関数が推定する収益化水準が実際の値を上回っている場合、そのメディアは現時点では十分に収益化されていないが、今後、消費量に対する収入がさらに拡大する余地があることを示唆している。
アテンションに基づく消費者セグメント: 価値の高い3つのセグメント
メディア消費者をデモグラフィック、所得、支出、消費量といった指標でセグメント化する通常のアプローチは、消費者行動を理解するうえで有益な知見をもたらすが、アテンション関数は、消費者のメディア消費に対する姿勢や価値観に着目し、「アテンションの質」という、新たな重要な視点を提供する7 。
このアプローチでは、消費者を「費やした時間」ではなく、「コマーシャル(商業的)な価値」と「アテンションの価値」によって特徴づける。
米国人口を代表する大規模なサンプルを用いた分析により、7つの顧客セグメントを特定した。そのサンプルのうち約40%は、コマーシャルな価値とアテンションの価値がともに高く、以下の3つのセグメントに分類される。
- 「コンテンツ愛好家」- エンターテインメントを幅広く楽しむ層(全消費者の13%)
好奇心旺盛で情熱的なこの層は、コンテンツへの支出は平均的な消費者の2.4倍、消費量は1.7倍に上る。いわゆる「熱狂的なファン」であり、映画シリーズを観た後にスピンオフ作品も視聴し、テーマパークの関連アトラクションを体験し、その過程で広告された関連商品も購入するなど、関心のあるコンテンツには幅広く関与する傾向がある。
- 「インタラクティビティ愛好家」- 没入感を求める層(16%)
競争心が強くエネルギッシュなこの層は、ゲーム、スポーツ、オンライン賭博、コメディを好む。広告よりもエンドースメント(有名人による推奨)を重視し、ユーザー生成コンテンツを支持する傾向が強い。また、Reddit のようなオンライン掲示板で多くの時間を過ごしている。コンテンツ消費には積極的である一方、現代のメディア環境に対しては、「複雑で分かりにくく、利用しづらいうえに、費用も高すぎる」と感じている。
- 「コミュニティトレンドセッター」- 文化を生み出す層(10%)
社交的で影響力のあるこの層は、コンサート、映画、テーマパークなどの大規模な共同体験を好む。ソーシャルメディア上でも活発に活動し、オンライン上の文化やファンダム(熱心なファンコミュニティ)の形成を牽引しており、趣味や関心事に対しては多額の支出を行う傾向がある。この層は、他のどのセグメントよりも広告に好意的であり、文化的なトレンドを生み出していない時はショッピングを楽しんでいる。
コンテンツ愛好家は、他のセグメントとは一線を画す存在で、コマーシャルな価値、アテンションの価値双方で高い価値を持っている。一方、インタラクティビティ愛好家とコミュニティトレンドセッターは、アテンションの価値には大きな差があるものの、コマーシャルな価値という点ではよく似ている(図表6)。
残る約60%の消費者は、アテンションの価値とコマーシャルな価値はいずれも低く、4つのセグメントに分けられる。これらのセグメントはいずれもコマーシャルな価値は低いものの、詳しく見ると、アテンションの価値には差が見られ、潜在的な収益創出の可能性にも違いがある。
- 「デジタル伝統主義者」- テクノロジーに精通した伝統的メディアの利用者(全体の10%)
他のセグメントに比べて年齢層は高いが、柔軟な考え方を持ち合わせており、新しい出版・配信形態にも前向きではあるものの、ユーザーが生成したコンテンツよりも、プロが制作したコンテンツを好む傾向がある。トレンドを追うことを楽しみ、お気に入りのブランドとの結び付きも強い。
- 「レガシーメディア支持層」- 伝統的メディアを支持する層(29%)
全セグメントの中でも年齢層が高く、デジタルメディアに対して慎重な姿勢を持つ。ケーブルテレビ、書籍、新聞などの従来型メディアを好む消費者が最も多く集まるグループである。デジタル配信サービスについては、「分かりにくく、費用も高く、煩わしい」と感じている一方で、ニュースは生活に欠かせないものと考えている。
- 「モバイルスクローラー」- 無料コンテンツを回遊する層(11%)
デジタルへの適応力が高く、価格にも敏感である。スマートフォンを日常の様々な用途に使いこなし、何かを探すというよりは、画面を次々とスクロールすること自体を好んでいる。有料コンテンツを利用する際は、コンテンツのラインアップが豊富なデジタル配信サービスを選ぶ傾向がある。
- 「倹約的思考者」-価値を重んじる知識探索層(11%)
知的好奇心が強く、リスクには慎重な層である。オンラインゲームやパズルなど、知的刺激のあるメディアを好む(ただし、行動を追跡されることは好まない)。支出には慎重である一方、オスカー候補作品や舞台演劇など、文化体験には惜しみなくお金を使う。
これらのセグメントは、それぞれ異なるアテンションの価値を持っており、セグメントごとに好まれるメディアも異なる(図表7)。
興味深いことに、広告に対する好感度と、広告起点の購買頻度(少なくとも月1回、広告をきっかけとして商品を購入する消費者の割合)は必ずしも関連していない。例えば、「インタラクティビティ愛好家」の45%が「広告が嫌いで、できる限り避けたい」と回答しているのに対し、「コミュニティトレンドセッター」で同様の回答をした人は5%にとどまる。しかし、両セグメントとも約30%が「広告をきっかけに月1回以上商品を購入している」と回答している。
セグメント全体を通して見ると、広告起点の購買頻度には大きな差が見られる。消費者の数が最大のセグメントである「レガシーメディア支持層」は、広告起点の購買頻度が最も低いが、「コンテンツ愛好家」は、その12倍の頻度で広告起点の購買を行っている。
「スーパーユーザー」と「スーパースペンダー」: アテンションの質の高さが支出を左右する
あらゆるメディア市場の消費者に見られるように、アテンションに基づく各消費者セグメントにも、突出して多くのコンテンツを消費し、メディア企業にとって重要な価値を持つ「スーパーユーザー」が存在する。しかし、コンテンツを「大量に消費すること」が、必ずしも「大量に支出すること」を意味するわけではない。そのギャップを理解するうえで重要なのが、「消費者のアテンションの質」という視点である。
消費量は支出額と必ずしも一致しない
メディアを最も多く利用している人(消費時間ベース)と、メディアに最も多く支出している人(支出額ベース)は、必ずしも一致しない。
今回の調査によると、メディア支出額の上位10%の消費者が、メディアへの消費者支出全体の約50%を占めている。一方、消費時間をベースとした上位消費者の支出集中度はそこまで大きなものではない。消費時間ベースの上位10%の消費者が占める支出の割合は20%程度にとどまる。つまり、大量にメディアを利用している「スーパーユーザー」が、必ずしも「スーパースペンダー」とは限らないのである。本調査では、メディア消費時間が上位10%に入る消費者を「スーパーユーザー」、メディア支出額が上位10%に入る消費者を「スーパースペンダー」と定義しているが、スーパーユーザーのうちスーパースペンダーに該当するのは、わずか3分の1に過ぎない 。この傾向は、個別のメディアの中ではさらに顕著である。例えば、有料動画コンテンツの利用時間が上位10%に入る消費者のうち、支出額でも上位10%に入る人はわずか5分の1にとどまる。消費量が多いユーザーや、自らを「配信愛好家」と称するユーザーの中には、実際にはコンテンツを積極的には視聴せず、BGMのように流しっぱなしにしているケースも少なくない。そのため、直接的な支出だけでなく、広告への接触や口コミによる情報拡散といった観点でも、その価値が想定よりも低くなる可能性がある9。
アテンションがギャップを埋める: 集中度と支出の相関
消費者全体では、メディア全体での集中度が平均10%上昇すると、メディア支出は17%増加し、広告起点の購買頻度も20%高まる。集中度が上位25%に属する消費者の支出額は、下位25%に属する消費者の約2倍に達する。つまり、より高いアテンションを持ってメディアに接する消費者ほど、より多く支出する可能性が高いのである。「スーパースペンダー」は、アテンションに基づくセグメント全体を通じて存在しているが、その多くはアテンションの高いセグメントに集中している。支出額上位10%の消費者の約40%は「コンテンツ愛好家」であり、「インタラクティビティ愛好家」や「コミュニティトレンドセッター」にも上位支出者が相対的に多く存在する。「大量消費」は必ずしも「大量支出」(これはメディアへの支出だけでなく広告起点の購買も含む)を意味せず、高い集中度を伴った消費こそが、支出と高い相関を持っている(図表8)。
企業のパフォーマンスを左右するアテンション
ここまで、アテンションが、様々なメディア形式や様々な消費者セグメントの間における収益化水準の差を説明するうえで極めて重要な指標となることを見てきたが、アテンションは同じメディア形式内で競合する企業間の差を説明するうえでも重要な役割を果たす。
例えば、米国の主要なエンターテインメント系配信サービス(サービスバンドルを含む)における加入者生涯価値(LTV)は、消費者の集中度と、そのサービスがどのような消費目的で利用されているかと強く相関している。つまり、加入者の集中度を高め、より価値の高い消費目的を獲得できれば、加入者の支払意思額(WTP)は上昇し、解約率は低下する。実際、集中度が高く、価値の高い消費目的を持つ配信サービスは、高いLTVを実現している。一方、集中度・消費目的の水準が低いサービスほどLTVも低くなる傾向が見られる(図表9)。
本分析では、2つの配信サービス(またはサービスバンドル)が特に高い成果を示している。一つは高い集中度を引き出しており、もう一つは「自分の好きなものを楽しむため」といった、より価値の高い消費目的で利用されている。
つまり、集中度と消費目的というアテンションを構成する2つの要素はいずれも価値創出に寄与しており、結果として、加入者のLTVの向上をもたらしている。
相関関係があるからといって因果関係があるとは限らないが(場合によっては因果関係が逆転することもある)、以下の要素が配信サービスにおける高いアテンション指数と相関関係がある。
- コンテンツの量
コンテンツの量(その年の新作数とライブラリで視聴できる旧作数の両方)が多いほど、アテンションの水準も高まる傾向がある。豊富なコンテンツライブラリが高い効果を発揮するのは、レコメンド機能によって利用者が関心のある作品にたどり着きやすくなるためと考えられる。
- コンテンツへの需要
アテンションは、高需要作品がカタログに占める割合ではなく、高需要作品の数(絶対数)と相関している(需要の高さはParrot Analytics の需要スコアで測定10 )。需要スコアが上位25%、10%、1%に入る作品を多く保有するプラットフォームは、たとえそれらのヒット作がカタログ全体に占める割合は小さくても、より質の高いアテンションを獲得している。
- レコメンド機能
視聴者の集中度は、レコメンド機能の有効性に対するユーザー評価と強く相関している。レコメンド機能の有効性評価が1.1ポイント向上すると、集中度も0.9ポイント上昇する。
- 知的財産(IP)
有力IPを基に制作されたコンテンツを多く保有するプラットフォームほど、「自分が好きなものを楽しむため」に利用される傾向が強い。
- ジャンル構成
スポーツの主たる消費目的は「自分が好きなものを楽しむため」、ニュースは「学びや情報収集のため」であり、スポーツとニュースは、主たる消費目的が「軽い娯楽やリラックス」ではない数少ないジャンルである。スポーツやニュースでは、最も高い集中度を示す視聴者の割合が他のジャンルの最大2倍に達する。
- 顧客セグメント構成
当然ながら、「コンテンツ愛好家」「インタラクティビティ愛好家」「コミュニティトレンドセッター」といった高いアテンションを持つ顧客セグメントの割合が相対的に高い配信サービスは、アテンション指数が高く、LTVも高い。
- 有料性
有料のサブスクリプション型サービスや広告付きサブスクリプション型サービスは、FAST(無料広告型ストリーミングテレビ)よりも高いアテンションと、より価値の高い消費目的を獲得している。一方、サービスごとに見ると、同業他社に比べて広告付きプランを選ぶ利用者の割合が高いサービスほど、集中度は低くなる傾向が見られる。
アテンション関数は、広告主にとってはレゾナンス(共感)を強化し、コンテンツ制作者、出版・配信事業者にとってはコンテンツ戦略をより強固なものにするものだ。
メディア関係者への示唆
消費者のアテンションに関する今回のマッキンゼーの調査は、メディア業界に関わる様々な関係者が、重要な意思決定や直面する困難な課題に、より効果的に対処するための知見を提供する。
広告主
これまで広告業界は、消費者が広告に接する際のアテンションを測定するための指標の開発に、多額の投資を行ってきた。例えば、眼球の動き、まばたきの頻度、生体反応、そしてマウス操作などコンテンツに対する直接的な行動の測定などである。Interactive Advertising Bureau(IAB)とMedia Rating Council(MRC)は、アテンションの測定に対する需要の高まりを受け一連の測定基準を策定したが、その有効性に関する結果は一貫していない11。例えば Advertising Research Foundationの調査では、アイトラッキング(視線追跡)データと商品の売上げとの間には、限定的、あるいはごくわずかな相関しか確認されていない12。
アテンション関数が示すのは、「集中度」は重要であるものの、包括的な意味でのアテンションは視線計測やまばたきの頻度だけでは捉えられず、少なくとも「消費目的」の要素を含める必要がある、ということである。
広告におけるアテンション関数に近い概念として挙げられるのが、広告テクノロジー企業 Research Measurement Technologies が提唱する「レゾナンス(共感)」である13。初期の実証研究によれば、レゾナンスは広告効果の向上に寄与する可能性がある。広告が消費者に共感を呼ぶことができ(例えば、広告を見た消費者が「この広告は自分向けだ」と感じるなど)、さらにその広告が置かれた文脈が適切である場合(例えば、ユーモラスな広告がコメディ番組とともに表示されるなど)、共感を呼べない広告と比べて売上げにつながる可能性が高い。
メディアや番組レベルでの「集中度」と「消費目的」によって測定されるアテンションは、レゾナンスに新たな検討の次元を加え、マーケターに新たな問いを投げかける。
すなわち、「アテンションが低いセグメントと高いセグメントの双方にリーチする必要がある中で、自社の広告は、消費者がそのコンテンツを利用する際の集中度や消費目的と整合しているだろうか」。
こうした観点を踏まえ、広告主が検討すべき主要な課題を以下に挙げる。
- 消費時の集中度と消費目的に合った広告によりレゾナンスを高める
異なる文脈において、消費者のアテンションの度合いをどのように特定すべきか。また、各メディアの消費目的(好きなもの、学び、社会的つながりなど)に応じて、広告をどのようにカスタマイズできるか。
- アテンションの価値とコマーシャルな価値の両面から消費者をセグメント化する
広告主は、アテンションの度合い、広告受容性、消費に対する価値観(コンテンツ愛好家の熱量やインタラクティビティ愛好家の没入度など)を反映する形で消費者をどのように分類し、それに合わせてコンテンツをどのようにパーソナライズできるか。
- 過小評価されているアテンションの価値の創出機会を特定し活用する
アテンションの価値が広告コストを上回るメディアや特定のプラットフォーム(例えばモバイルゲームや動画配信など)は存在するか。それをアテンション関数の指標によって定量的に裏づけることは可能か。さらに、デジタル書籍や家庭用ゲーム機向け・PCゲームのようなアテンションの高いメディアにおいて、ユーザー体験を損なうことなく広告を組み込むことはできるか。
コンテンツ制作者と出版・配信事業者
コンテンツ制作者および出版・配信事業者(IP保有者、映画・テレビ・ライブイベントのプロデューサー、ミュージシャン、著者、出版社、動画配信プラットフォームなど)は、共通して根本的な課題に直面している。それは、「多様なメディアがひしめく環境の中で、消費者のアテンションを効果的に獲得するコンテンツを、いかに制作し提供するか」である。
メディア業界がますます過密になり競争が激化する中、コンテンツ制作者や出版・配信事業者は、その答えを見出すために、トラッキング(顧客追跡)、調査、実験的な取り組みを積極的に進めている。
例えば、メタデータのタグ付けにより、作成されたコンテンツの内容や特性を詳細に把握できるようになり、複雑なアルゴリズムを通じて消費者とコンテンツの最適なマッチングが実現されている。さらにプラットフォームのデータ分析により、消費者がどのような人々で何を求めているのかについてリアルタイムで把握できるようになっている。
アテンション関数は、こうした既存ツールを補完し、コンテンツ制作者や出版・配信事業者が、より適切な意思決定を行うための新たな視点を提供する。
制作、出版・配信、投資の意思決定に「アテンション」の視点を組み込む際には、以下の点を検討することが重要である。
- アテンションの視点をコンテンツ戦略に組み込む
特定の種類のアテンションや消費目的で卓越する戦略をとるべきか、それとも消費者の幅広いニーズに応えるコンテンツポートフォリオを構築すべきか。また、コンテンツの制作、調達、レコメンドモデル、資本配分において、アテンションをどのように組み込むべきか。さらに出版・配信事業者は、活動の成果を把握するために、獲得した「アテンションの質」をどのように評価すべきか。
- 消費者と広告主を最適な組み合わせで引き付け、それに適したコンテンツを提供する
コンテンツ制作者や出版・配信事業者は、既存の顧客セグメント(アテンションに基づく)に合わせてコンテンツをカスタマイズしつつ、新たな顧客セグメントをどう獲得できるか。また、適切な広告主をどのように誘致すべきか。さらに、アテンションという視点を取り入れた場合、これまで十分に評価されていない出版・配信機会にはどのようなものがあるか。
アテンションを軸に未来を築く
消費者のアテンションをめぐる競争は、長らく消費者の規模や消費時間の長さによって測られてきた。しかし、この見方だけでは、全体像を捉えることはできない。アテンション関数は、この競争の勝者たちがこれまで感覚的につかんでいた成功の鍵を、明確な形で示すものである。すなわち、成功を左右するのは、アテンションの「量」だけではなく、その「質」と「適切さ」でもあるということである。
コンテンツがあふれ、消費者の関心が分散し、注意が散漫になりがちな今日のメディア環境においては、集中度と消費目的によって生み出される「価値あるアテンション」こそが、メディアに関わる企業にとっての目的関数である。アテンション関数は、企業のリーダーが、消費者のアテンションをより正確に把握する助けとなる。これにより、コンテンツと利用文脈の適切なマッチングを実現し、消費者への理解を深め、最も価値の高いアテンションへの投資と収益化をより効果的に進めることができる。
これまでメディア業界は、消費者のアテンションをあまりにも狭い視点で捉えてきた。しかし、その真の価値に着目する企業こそが、今後も消費者のアテンションを獲得し続けるうえで最も有利な立場に立つことになるであろう。