ラグジュアリー市場の現状: 米国および中国の顧客が示唆する業界の将来像

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ラグジュアリーブランドの顧客にとって、価値、魅力、特別感とは何か。その答えは、今や居住する地域によって大きく異なる。

ラグジュアリー市場が成長鈍化の局面を抜けつつある中、米国と中国の消費者は、今後どのようなブランドが業界をリードするかを左右する存在として、これまで以上に重要な役割を担うとみられる。この両国は、ラグジュアリー需要が最も集中する市場である。米国は売上高で世界最大の市場である一方、中国は2030年に向けて最も高い成長率が見込まれる市場の一つである。世界全体のラグジュアリー市場は、年平均4~6%で成長し、2030年までに7,000億ドル規模へ拡大すると予想されている。

市場ごとに具体的な消費行動には違いがあるものの、消費者のラグジュアリーへの関わり方が、4つの側面で大きく変化している。米国と中国のいずれにおいても、ラグジュアリー商品の購買意欲を高める要因は、「ステータス」から「感情的なつながり」へと移りつつある。消費者の支出先を巡っては、商品と体験が競合するようになっている。「特別感」の意味も、入手困難であることから、限られた人に認められることへと移りつつある。そして、ブランドとの出会いの場は、ブティックやブランド直営チャネルを超え、AIプラットフォームやリセール市場、さらには消費者同士のネットワークへと広がっている。

本年度の「State of Luxury」レポート (英語のみ)では、米国と中国の2,000人以上のラグジュアリー顧客を対象とした調査、および両市場の顧客への幅広いインタビューを基に、「魅力」「特別感」「体験」「ブランドとの出会い」という4つの側面から、顧客がラグジュアリーブランドに求めるものを分析する。さらに、より細分化・多様化が進むラグジュアリー市場において、ブランドが選ばれ続けるための要件を明らかにする。

ステータスが購買の決め手ではないとすれば、何がそれに代わるのか

これまでラグジュアリーブランドの成長を支えてきたのは、ステータスシンボル、すなわち、多くの人が憧れ、ひと目でそれと分かる商品を求める消費者心理であった。しかし、その構図は変わり始めている。

米国・中国の両市場において、ブランドの魅力を左右する要因として、「感情的なつながり」が、クラフツマンシップやブランドの歴史、特別感といった従来のラグジュアリーの価値を上回るようになっている (図表1)。

消費者は、単に富やステータスを誇示するためではなく、自らのアイデンティティや価値観、ありたい姿を表現できるブランドを求めている。

図表 1

ブランドに求めるものは、市場によって異なる。米国では、ラグジュアリー消費者は新興ブランドに強く惹かれる傾向がある。自らのアイデンティティをよく反映しているブランドとして、「新しいブランドや既成概念にとらわれないブランド」を挙げた回答者は68%にのぼり、「歴史あるラグジュアリーブランド」を挙げた63%を上回った。そのため、米国のラグジュアリー消費者を取り込むには、伝統的なブランドも革新的なブランドのように振る舞うことが求められる。社会やカルチャーの変化を捉えたキャンペーンを展開するとともに、マーケティング施策や商品開発の両面で創造性を高め、共通の価値観やブランドのパーパスを軸としたコミュニティを構築することが重要となる。

一方、中国では、引き続き歴史あるブランドが優位性を維持しており、消費者はブランドへの信頼感や認知度、ブランドとしての権威をより重視している。こうした市場では、ブランドの魅力は高い認知度に加え、一人ひとりに寄り添ったサービス体験によって、「顧客」としてではなく「個人」として大切に扱われていると感じられるかどうかにかかっている。

米国・中国のいずれの市場においても、クラフツマンシップおよび品質は依然として不可欠ではあるものの、もはやそれだけでは差別化にはつながらない。定価での購入を促す最大の要因は、希少性ではなく、その場で「欲しい」と感じさせる魅力なのである。

誰もがラグジュアリー商品を購入できるようになった今、何が特別感を生み出すのか

消費者は、単に希少であること自体に価値を感じなくなりつつある。誰からも認められることよりも、「知る人ぞ知る」存在として、分かる人に認められることの方が重要になっている。

米国・中国の両市場において、商品が入手困難であることを理由に、定価で購入すると回答した消費者は少数にとどまる。むしろ特別感は、企業が演出したものではなく、真価の分かる人に認められることや、選ばれた人だけに提供されるアクセスや体験によって生まれる。

米国に目を向けると、消費者は、新作コレクションへの先行アクセスや限定商品、会員限定の特典を、特別感を感じる要因として高く評価している。米国市場を対象とするブランドには、特別なアクセスやブランドコミュニティ、ロイヤルティを軸とした、コア顧客との関係性を深める仕組みを構築することが求められる。

一方、中国では、特別感は商品への限定アクセスなどではなく、質の高いサービスによって生み出される。消費者は、オーダーメイド型のサービスやプライベートショッピング、そして信頼できる販売員との関係をより重視している。この市場では、特別感は商品への限定アクセスのみではなく、パーソナライズされたきめ細やかな配慮から生まれる。そのため、ラグジュアリーブランドは、販売員が顧客一人ひとりに合わせた購買体験を提供するとともに、厳選した商品やサービスへのアクセスを提案できるよう支援することが求められる。

特に注目すべきなのは、米国・中国のいずれの市場においても、歴史あるラグジュアリーブランドよりも、新興ブランドの方が「特別感がある」と評価する傾向にあることである。多くの消費者にとって、特別感はもはやブランドの規模や伝統、知名度によって生まれるものではない。消費者が共感するカルチャーとの親和性やブランドの独自性、そして「人とは違う商品を持っている」と感じられることこそが、特別感を醸成している。

「体験」がラグジュアリー商品の最大の競合となる中、ブランドはいかにして商品を販売すべきか

消費者は、ラグジュアリーブランドとの関係性を、そのブランドと結び付いた体験や記憶という観点から捉えるようになっている。

こうした変化は、消費者が自由に使えるお金が増えた時に何に使いたいと考えているかにも表れている。米国・中国の両市場で、「旅行」があらゆるラグジュアリー商品のカテゴリーを上回り、最も高い支持を集めた。しかし、これは消費者がハンドバッグより旅行を好むようになったという意味ではない。むしろ、消費者はラグジュアリーを、よりパーソナルで、心に残り、他では得難い体験と結び付けて捉えるようになっているということである。

米国では、ラグジュアリー消費者は、旅行やウェルビーイングに関するアクティビティなど、ライフスタイル体験への関心が特に高い。このことは、ラグジュアリーブランドが、消費者の時間や関心を巡って、今やブティックホテルや会員制クラブ、ウェルネス施設、さらには文化施設とも競い合う時代になったことを意味している。そのため、ブランドには、単発のイベントや画一的なホスピタリティにとどまらず、各ブランドのクラフツマンシップやルーツ、スタイリング、コレクションとしての価値への理解を深める体験を提供することが求められる。会員プログラムやウェルネスプログラムなど、継続的な接点を生み出す仕組みは、顧客ロイヤルティの向上やブランドとの感情的なつながりの強化に寄与する。また、結婚式や誕生日といった人生の節目に、記憶に残る体験を提供する機会を創出することも同様に有効である。

一方、中国のラグジュアリー消費者は、体験をブランドそのものとより強く結び付けて捉えている。実店舗は、依然としてラグジュアリー商品を購入する際の主要な情報収集・発見の場であると同時に、ブランドとの感情的なつながりや思い出を育む場でもある。そのため、中国の消費者は、招待制のショッピングイベントやパーソナライズされた接客、知識豊富な販売員との関係をより重視している。店舗は、ブランドの世界観を体感できる空間として、商品の販売だけでなく、ブランドストーリーを伝え、一人ひとりに合わせた体験を提供し、顧客との関係を築く場であることが求められる。こうした変化を踏まえると、店舗の成果指標そのものを見直す必要が出てくる可能性もある。例えば、当日の売上高だけでなく、店舗で顧客に接客した時間や、メッセージアプリを通じた顧客とのやり取りも、同じくらい重要な指標となり得る。

ブランドが顧客との最初の接点を主導できない時代に、選ばれるブランドであり続けるには

消費者は、ブティックを訪れる前から、AIツールやリセールプラットフォーム、クリエイター、さらには友人・知人などのネットワークを通じて、商品の情報収集や比較、評価を行っている。購買に至るプロセスは、より多くの情報に基づく主体的な判断へと変化し、ブランドが必ずしもコントロールできないプラットフォームの影響を大きく受けるようになっている。

AIがこの変化をさらに加速させている。米国・中国の両市場において、消費者は購買プロセスの「商品検索」の段階で最もAIを活用しており、各商品の特徴を把握したり、選択肢を比較したり、自分に合った商品を提案してもらったりしている (図表2)。

図表 2

しかし、両市場の重要な違いが明確になりつつある。米国では、特に高額消費者を中心に、AIがブランドや商品の認知、さらには比較・検討の段階にも影響を及ぼし始めている。この市場では、消費者が共感するカルチャーとの親和性を高めるだけでなく、AIのアルゴリズムにも適切に認識・評価されることが重要になる。そのためには、商品情報やレビュー、ブランドストーリーを、AIが適切に読み取り、提示しやすい形で整備することが求められる。

一方、中国では、AIはより実務的な役割を担っており、商品仕様や品質の確認、商品の比較・検討などに活用されている。また、中国の消費者は、ラグジュアリーな体験をきめ細やかなサービスと結び付けて捉える傾向があることから、AIを顧客と販売員との接点を減らすためではなく、顧客のブランドへの信頼感を高めるために活用すべきである。例えば、販売員による専門的なアドバイスと、顧客自身で利用できるAIツールを組み合わせることで、どちらか一方だけを提供する場合よりも、顧客エンゲージメントをさらに高めることができる。

リセール市場もまた、ラグジュアリーとの関わり方を大きく変えつつある。リセール市場を最も積極的に利用しているのは、ラグジュアリーに憧れている消費者ではなく、すでにラグジュアリーを愛用している顧客である。こうした消費者にとって、リセールは価格の手頃さよりも、新たな商品との出会いの機会としての意味合いが強い。従来の販売チャネルでは手に入らない希少品や過去のコレクション品、入手困難な商品を見つけるための手段となっている。

米国では、リセール市場を利用する理由は、価格面だけではなく「思いがけない逸品を見つけ出す喜び」も大きな魅力となっている。消費者は、リセール市場を新たな商品との出会いや、コレクションとしての価値を持つ商品、他では見つからない一点物を発見する場として捉えている。リセールプラットフォームは、どの商品がコレクションとして価値があり、アイコン的な存在となり、資産価値を持つかの評価に、ますます大きな影響を与えるようになっている。このような状況で、ブランドがリセール市場を軽視すれば、長期的なブランド価値に対する消費者の認識を形成する機会を失いかねない。

中国では、AIが果たす役割と同様に、リセール市場の利用も「逸品を見つけ出す喜び」よりも、信頼を重視している。そのため、商品の真正性や出所、そして信頼性の確保が何より重要となる。中国のリセール市場は依然として発展途上にあるものの、中国のラグジュアリー消費者を取り込むには、AIやリセールを活用した顧客接点の強化を進める前に、まずは信頼面の課題を解消することが求められる。


これからのラグジュアリー市場では、商品そのものを磨き上げることは、ブランドにとって、むしろ容易な要素になるかもしれない。米国・中国の両市場において、消費者がラグジュアリーに求める価値が変わりつつある。それは、感情的なつながりや、真価の分かる人に認められる特別感、心に残る体験、そして発見する喜びを伴う商品やブランドとの出会いである。次世代のラグジュアリーブランドをリードするのは、商品そのものに加え、消費者が同等に重視する、他では代え難い無形の価値を創出できるブランドである。

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