日本語版掲載によせて
半導体産業は、テクノロジー進化を支え、経済安全保障の要となる中核産業として、かつてない注目を集めている。AI の急速な普及、データセンター需要の拡大、電動車や高度運転支援システム(ADAS)の進展などを背景に、市場は力強い成長軌道にあると広く認識されている。マッキンゼーでは2022年に2020年代に市場規模は倍増し、2030年に1兆ドルへ拡大するという見込みを発表し、多くの市場予測も似た数字を提示してきていた。
しかし本稿が提示するのは、こうした「楽観的」な見通しでさえ、なお過小評価である可能性だ。従来の市場規模推計は、主として半導体の販売額に基づいて算定されてきた。このアプローチは長年有効であったものの、近年の産業構造の変化を十分に捉えきれていない。具体的には、マートフォンなどのメーカー(OEMと本稿では表現)による内製設計チップ、クラウド事業者などによる自社専用(キャプティブ)チップ、先端パッケージングを活用するファブレス企業の付加価値などが、販売統計ベースでは十分に反映されていない可能性がある。また、中国企業の実態も、情報の制約により過小に評価されがちである。
本稿では、こうした盲点を補うため、販売額だけに依存しない新たな分析アプローチを採用した。OEM の内製チップについては製造原価(COGS)に加えて想定内部粗利を織り込み、キャプティブ設計については研究開発費や関連コストから価値を推計するなど、企業タイプごとに手法を最適化している。その結果、2024年の半導体市場規模は約7,750億ドルに達し、2030年には1.5兆~1.8兆ドル、中央値で約1.6兆ドルへ拡大する可能性が示唆された。これは従来推計を大きく上回る水準である。
成長の果実は均等に分配されるわけではない。価値創出の中心は、先端ロジックや HBM(高帯域幅メモリ)など、AIを牽引する領域に集中する見通しだ。一方で、成熟ノードや一部メモリ分野では、規模拡大とコスト競争が収益性を左右する。本稿では、市場規模の再定義を出発点として、どのセグメントに価値が移動しているのか、そして企業がいかに戦略を再構築すべきかを議論している。
日本の半導体産業はかつて世界を席巻していたが、長期にわたり先端領域へ投資が限定的であった。今後、成熟ノードや汎用メモリ分野は中国勢とのスケールおよびコスト競争になる可能性も示唆されている。AI・半導体が成長戦略の中核に掲げられる中、成長の果実を日本企業が取るにはどうするべきか、大胆な施策を考えるべき時期にきているのではないか。
土谷大、東京オフィスパートナー
2026年3月
市場アナリストは、特定のトレンドや予測については意見が分かれることがあるが、半導体市場については概ね楽観的である。大勢の予測では、半導体産業は2024年に6,300億~6,800億ドル規模とされ、主に AIとデータセンターの成長に支えられ、2030年には1兆~1兆1,000億ドルに達すると予想されている。
この見方は前向きではあるが、半導体産業の真の価値をかなり過小評価している可能性がある。従来の試算は主に販売数量に基づいているため、社内に設計能力を持つ OEM、キャプティブチップ設計会社、ファブレス企業、特に一部の先進パッケージング分野を手がける企業によって生み出されるチップの価値を、部分的または全面的に見落としている可能性がある。しかも、これらのカテゴリーは現在最も高い成長率を示しており、その見落としは大きな影響を及ぼし得る。さらに、中国半導体企業の売上に関する情報は不完全または不透明なことが多く、現行の分析では過小評価されがちである。
AI により、半導体産業の平均年平均成長率は、2014年から2024年に記録された9%を大きく上回ると予想される。そのため、正確な価値評価はこれまで以上に重要である。本分析では、半導体の価値をより正確に評価するため、中国を含むあらゆる種類の企業を分析した。市場で直接チップを販売しない企業の場合、販売数量だけでは価値を正確に把握できない。そこで、半導体企業の種類ごとに分析手法を調整した。例えば、スマートフォンメーカーのように自社でチップ設計を行うOEMプレーヤーについては、売上原価(Cost of Goods Sold: COGS)と製品の一般的な粗利率を組み合わせ、市場への貢献度を推定した。
主なポイントは次の通りである。半導体市場の価値は、2024年に7,750億ドルに達し、2030年には1兆6,000億ドル(1兆5,000億~1兆8,000億ドルの範囲)に達する可能性がある。この数値は他の予測を大きく上回る。ただし、すべての半導体企業が等しく恩恵を受けるわけではない。成長の大半は最先端チップと広帯域メモリ(HBM)に関連するためである。半導体業界に勝者総取りの構図があることを踏まえると、これらのセグメントで最も大きな価値を得るのは革新性の高い数社であろう。先進ノードや成熟ノード、DDR1DRAM や NANDメモリなど他の市場セグメントでは、トップ企業は規模拡大や従来のコスト最適化の取り組みを通じて、積極的にコスト削減に取り組んでいる。また、より成長性の高い分野でのプレゼンスを拡大し、提供する製品の差別化を図ろうとしている。
ただし、重要な留意点がある。すべての予測と同様に不確実性が大きいため、推定値には一定の幅を持たせた。例えば低位シナリオでは、AI 需要が想定より弱く、チップ需要の減少につながる。1.6兆ドルという見積もりは、基準シナリオを反映している。
市場規模の再評価
これまでアナリストは、半導体デバイスがエレクトロニクス企業に販売された売上高を基に、市場規模を算定してきた。対象は、ファブレス事業者、ファウンドリー、チップの設計と製造を行う統合デバイスメーカー(IDM)である。例えば非上場企業など、直接の販売データが入手できない場合には、アナリストが推定値を作成してきた。
この従来のアプローチは、長年にわたり市場を支配していた IDM、ファブレス、そして完全統合型企業のチップ価値を適切に評価しており、半導体市場価値の比較的正確なバロメーターであった。しかし現在、成長の大半はキャプティブチップ設計会社、自社設計の OEM、ファブレス企業が牽引しており、売上高に大きく依拠する分析では、それらのチップ価値を十分に説明できない。なお、各社の市場シェアの変化についてはコラム「進化する半導体市場」を参照されたい。加えて、中国企業も成長を続けている。そのため、従来の見積もりでは十分に把握できなかった企業価値への貢献度を、より精緻に評価する必要性が高まっている。
売上ベースでは見えにくい市場の全体像
本分析の評価方法は、従来のアプローチに内在する複数のギャップを解消している。具体的には、以下のプレーヤーを考慮に入れている。
キャプティブチップ設計会社 : これらの企業は通常、クラウドサービスのデータセンターを運営するハイパースケーラーであり、自社内で使用するチップを作成する。これらの半導体は一般市場では販売されず、競争力のあるコストで高性能なクラウドサービスを提供するために社内で使用される。そのため、売上ベースの分析ではキャプティブ需要が対象外となる。本分析のアプローチでは、キャプティブチップの設計・製造に関連する、社内の研究開発費、売上原価、一般管理費に着目し、キャプティブチップの価値を推定する。
自社設計のOEM: 多くのアナリストは、主にチップ製造に関するファウンドリーへの支払いを基に、売上原価のみで自社で設計された SoC(System on a Chip)の価値を評価する。しかし、この分析では、IDM やファブレスプレーヤーの貢献度を定量化する際には考慮されるにもかかわらず、推定される内部粗利率(あるサプライヤーが、最終製品の製造部門にチップを販売した場合に得ると想定される利益)が見落とされる。本手法では、自社設計を行うOEM についてCOGSと推定内部粗利率の双方を考慮し、一貫性を高めている(図表1)。
自社設計のOEM: 多くのアナリストは、主にチップ製造に関するファウンドリーへの支払いを基に、売上原価のみで自社で設計された SoC(System on a Chip)の価値を評価する。しかし、この分析では、IDM やファブレスプレーヤーの貢献度を定量化する際には考慮されるにもかかわらず、推定される内部粗利率(あるサプライヤーが、最終製品の製造部門にチップを販売した場合に得ると想定される利益)が見落とされる。本手法では、自社設計を行うOEM についてCOGSと推定内部粗利率の双方を考慮し、一貫性を高めている(図表1)。
ファブレス企業 : ファブレス企業は、チップを設計し、ファウンドリーに製造を委託する。かつては売上高ベースの評価でファブレス企業が生み出す価値を正確に評価できたが、この評価方法には二つの理由から限界がある。
- プロセッサーやメモリなど別々に製造されたコンポーネントを異種チップに統合するため、先進パッケージング技術の活用が拡大していること
- 使いやすさを向上し、顧客がチップの潜在能力を最大限に活用できるようにするため、ソフトウェアを無償提供するケースが増えていること
通常のアナリスト予測では、ファブレス企業に帰属させる価値は限定的である。CoWoS(チップ・オン・ウェーハ・オン・サブストレート)パッケージ全体の価値のうち、ロジックやパッケージング・コンポーネントに関連する売上総利益や売上総利益率など、一部のみがファブレス企業に割り当てられる。HBM の粗利はファブレス企業には含められず、メモリ企業に帰属する。これに対し、本分析では、HBMを含むフル CoWoS パッケージの価値をファブレス企業に帰属させる。また、ソフトウェアについても手法が異なる。従来のアナリスト予測では、GPU(グラフィックス処理装置)にバンドルされるソフトウェアを考慮するために売上総利益の一部が差し引かれるのに対し、本分析ではマージンを全額維持する(図表2)。
中国企業の扱い : 2024年から2028年にかけて計画されている生産能力の拡大(ウェーハ生産能力で測定)の約半分は中国で行われると予想される。新設施設は先進ノードと成熟ノードの製造が中心のため、中国からのデータが不完全であれば、分析は当該セグメントの規模を過小評価する可能性がある。そこで、中国企業の価値をより正確に推定するため、本分析では、報告された収益、製造能力に基づく推定収益、社内独自モデルのデータを組み合わせている。この推定値は保守的であり、中国の稼働率低下や、将来発表される生産能力の一部が実現しない可能性を織り込んでいる。
将来の成長が期待できる有望な市場
2024年の半導体市場規模は、約7,750億ドルと推定される。この推定値は、他の市場評価(6,300億~6,800億ドル)より14~23%高い。この推定値の内訳は以下の通りである(図表3)。
- 中国以外の半導体プレーヤー(約6,040億ドル。そのうち5,070億ドルは半導体上位20社による)
- 中国に本社を持つ企業(930億ドル)
- 自社でチップ設計を行うOEM(520億ドル)
- キャプティブチップ設計会社(250億ドル)
2024年の市場規模を詳しく見ると、最大の分野はコンピューティングとデータストレージ(3,500億ドル)、ワイヤレス(2,000億ドル)、自動車(750億ドル)である。全ての分野を横断して、最先端ノードの規模は2,200億ドルに達し、あらゆる種類のメモリ(NAND、DDR DRAM、HBM)の合計価値に相当する。
2030年に1兆6,000億ドル規模となる半導体市場
先行き不透明感が強い中、将来の半導体需要を推計するため、三つの異なるシナリオを作成した。主な変数は AI 導入のスピード である。各シナリオでは、2030年の半導体市場の推定価値は1.1兆~1.8兆ドルの範囲となった。基準シナリオの1兆6,000億ドルは、2024年予測から8,250億ドルの増加に当たり、従来の予測(通常1兆~1兆1,000億ドル)を大きく上回る(図表4)2 。
当初の分析には織り込まれていなかった独立変数についても検証を行った。具体的には、業界の生産能力、売上高予測、資本支出などである。これらの分析結果は、2030年までに1兆1,000億~1兆8,000億ドルの価値が生まれるという推定を裏付けた。(コラム「追加分析による推定値の検証」を参照)
主要分野の今後の成長軌道
2030年の主要セグメントは、現在市場を支配している三つの分野である。ただし、各分野の成長軌道と需要ドライバーは異なる。
- コンピューティングとデータストレージ: この分野は2024年に3,500億ドル、2030年には8,100億ドルに成長すると予想される。4,600億ドルの増加は、半導体の予想成長額8,250億ドルの半分以上を占める。増加の大半はサーバー分野、特にAI サーバー需要である。需要増加に伴う出荷枚数の増加に加え、ノードサイズの縮小とHBM 含有量の増加により、ウェーハ平均販売価格(ASP)が上昇する。AI サーバーの接続が進み、大規模な共有メモリ・低レイテンシ・クラスターが構築されれば、それを支える有線セグメントも恩恵を受ける。
- ワイヤレス: この分野は2030年までに推定1,500億ドル成長し、総額3,500億ドルに達すると見込まれる。このシフトには複数の要因がある。第一に、多くの消費者がより高価なスマートフォンへ移行している。そのため、より高度なチップが必要になる。この変化は、年間スマートフォン出荷台数の伸び悩みを補う。第二に、新しい接続規格がより多くのシリコンを必要とすることもあり、他のワイヤレスデバイスの半導体含有量も増加している。さらにメーカーは、SoC、モデム、Wi-Fi チップ、NANDメモリコントローラなど最先端のワイヤレスコンポーネントについて、ノードサイズをより小さくする方向へ移行している。この移行は部品コストを押し上げる一方、接続性の向上、計算能力の強化、エネルギー消費の管理に寄与する。
- 自動車分野 : チップの価値は、2024年から2030年にかけて増加すると見込まれる。電気自動車への移行が、とりわけ先進・成熟ノード需要を押し上げ、市場成長を牽引する。加えて、先進運転支援システム(ADAS)の高度化も自動車市場の成長を促す。自律走行の進展には、高速なデータ処理を可能にするチップが不可欠である。
半導体セグメントにおける成長のばらつき ― そこにある大きな機会
2024年から2030年までの CAGR(年平均成長率)は半導体市場全体で13%と見込まれるが、成長率はセグメントごとに大きく異なる。
- 非メモリデバイスでは、最先端ノードの CAGR は22%と予測される。3ナノメートル(nm)ノードの需要は25%増加し、一方で、5nmと7nmノードの需要は減少すると見込まれる。2025年に利用可能となった2nmノードでは、2030年までに需要が136%増加すると見込まれる。1.4nmノードが2027年に想定通り利用可能になれば、予想 CAGR は約314%となる。
- 非メモリデバイスの先進ノードおよび成熟ノードでは、ノードサイズにもよるが、需要は2~4%の増加にとどまると予想される。
- HBM の CAGR は20%で、DDR DRAM(12.0%)や NAND(9%)を大きく上回る。
このような成長率の違いから、2024年から2030年にかけての市場全体の成長において、最先端ノードは他の主要セグメントよりはるかに高いシェアを占める(図表5)。
- この結果、主にAI 向けの最先端チップが、成長全体の62%を占める。この勢いは、新しいデバイスにおける計算能力需要と、高度な Wi-Fi チップなど次世代製品におけるノードサイズ小型化への移行が組み合わさった結果である。最先端チップ分野では、少数企業が利益の大半を得る勝者総取りの構図が続く可能性が高い。
- メモリ部門は最近の落ち込みから回復し、成長の31%を占め、そのうちほぼ半分は他の種類のメモリより販売価格が高い HBM によるものである。最先端チップと同様、数社が利益の大半を得る可能性がある。
- 先進ノードと成熟ノードは、これら二つのセグメントよりはるかに低い成長軌道をたどる。先進ノードと成熟ノードは現在、最先端ノードより大きな価値を占めるが、この状況は2026年に逆転し始めるだろう。多くの企業が先進ノードと成熟ノードを提供しており、他社に差をつける強力な成長戦略の必要性が浮き彫りになっている。
これら三つのセグメントでは、ウェーハ販売量とASP のトレンドが異なる方向に向かう可能性がある(コラム「ウェーハ市場の動向」を参照)。
半導体企業への影響
半導体業界の価値の大きさと成長のばらつきは、企業が今後の課題と機会の双方を過小評価している可能性を示している。市場シェアと経済的余剰を獲得する機会を最大限に生かすには、成長が最も早く加速し得る分野を含め、市場の構造や特徴を的確に把握することが不可欠だ。
最先端チップとHBM
マッキンゼーの市場内訳は、HBMと最先端チップ、特に最小ノードが最も成長を遂げることを明確に示している。2030年までの CAGR は20%を超えると予想され、その原動力は主に AIである。まだ HBM や最先端チップを製造していない企業は、そのためのリソースや能力の有無を検討することで利益を得られる可能性がある。一方で、その検討を怠れば、成長機会を取り逃がすおそれがある。
HBM や最先端チップを開発する企業にとって、成功の鍵は、より高速でエネルギー効率の高いソリューションを計算処理需要の高い分野に提供し続ける技術革新にある。具体的には、データセンターの GPU、ADAS 用チップ、メモリコントローラーなどでは改良が進んでいる。これらの用途でより微細化が進んだノードへ移行すれば、チップサイズやエネルギー要件を増やさずに性能を高められる。ただし、こうした機能強化には、より多くのマスク層と高い製造精度が必要となり、コスト上昇は避けられない。顧客は、最大の性能向上を実現できるソリューションへと集中する傾向がある。とりわけ価格が全体的に上昇すれば、勝者総取りの構図がさらに強まるだろう。
他の予測と同様に、前提を覆す動きが生じる可能性も否定できない。例えば、多くのプレーヤーは、推論コストの削減や現在のメモリ供給不足の影響緩和を目的に、HBM の代替となるチップを模索している。仮に代替技術への移行が進めば、HBM 需要は大幅に縮小する可能性もある。
先進ノードと成熟ノード
先進ノードと成熟ノードでは性能向上は比較的緩やかである。技術は長年にわたり最適化されてきたため、さらなる強化の機会が限られているからだ。先進ノードと成熟ノード全体の2024年から2030年までの CAGR は約3%と見込まれ、最先端ノードと比べると大幅に低い水準にとどまる。ただし、データセンターや電化製品の増加を背景に、 光接続チップ やパワー半導体など、この分野でも高成長が期待される領域もある。
場合によっては、生産能力の拡大が先進ノードと成熟ノードの市場成長を上回り、価格に下押し圧力が生じることもあり得る。この傾向は当該分野のメーカーにとって厳しい環境をもたらし、競争の激化を招く可能性が高い。その結果、成長の中心は ASP の上昇ではなく、販売枚数の増加に移ることになる。競争力を維持するには、規模の経済を獲得し、さらなるコスト削減を進める必要がある。その一環として、生産能力の拡大や M&A の活用が選択肢となる。製品面では差別化を徹底し、高成長セグメントでの存在感を高めることが求められる。
次なる成長に向けた戦略
過去数十年にわたる半導体業界の成長の多くは、各セグメントにおける数社の大手企業が牽引してきた。最近の分析では、マッキンゼーが各社の戦略を調査し、リーダー企業に共通する特徴を明らかにしている。
主な示唆は、好業績企業は、五つの大きな打ち手を組み合わせることで経済的利益の最大化を図ってきた点にある。そのうち三つはポートフォリオに関わる施策であり、プログラマティックM&A、ダイナミックなリソース再配分、競合他社へのアウト・インベストメントである。残る二つは業績に関わる施策で、生産性向上と、より高いマージンを確保するための競合他社との差別化に重点を置いている(これらの戦略は、2018年のマッキンゼーの書籍『Strategy Beyond the Hockey Stick』邦題「マッキンゼー ホッケースティック戦略 : 成長戦略の策定と実行」に記されている)。
今日の半導体企業も、ポートフォリオとパフォーマンスの両面を組み込んだ包括的なアプローチから恩恵を受けることができる。ただし、その具体的な戦略は企業により異なる。最先端チップ、DRAM、光通信、パワー半導体など高成長かつ急速に進化する分野の企業は、インテルの共同創業者で元 CEO のアンドリュー・グローブ氏が1996年に著したビジネス戦略の代表的著書『Only the Paranoid Survive(邦題「パラノイアだけが生き残る」)』で説かれているように、市場動向を注視し、ポートフォリオを迅速に調整することが求められる。同書は「戦略的変曲点」の重要性を強調している。戦略的変曲点とは、新技術の出現や大規模な市場変化によって企業が適応を迫られる局面を指す。このような局面では迅速な行動が不可欠であり、その兆候は初期段階では見えにくいため、継続的に注意深くモニタリングする姿勢が欠かせない。
低成長分野の企業は、差別化された製品を開発し、コスト優位を達成するために、業績向上への取り組みをさらに強化すべきである。ポートフォリオの再構成については、企業がより成長性の高い領域へのエクスポージャー拡大を図る中で、プログラマティックM&A やダイナミックなリソース管理が最も有効な手段となり得る。
本調査は、半導体市場が従来の推定以上に大きく、かつダイナミックであることを示している。しかし、機会は偏在する。最先端チップとHBM が新たな価値の大半を獲得する一方で、他のセグメントはコストと規模での競争を余儀なくされる。各社が戦略を再構築する中で、迅速な技術革新や有意義な効率化を実現した企業が優位に立つことになる。今後10年は、価値がどこへ移るのかを見極め、果断に行動する企業が報われる時代となるだろう。