取締役の職務は、これまでも決して容易なものではなかった。近年、ビジネス環境において複雑性が増し、不確実性が高まったことで、さらにその職務の難易度が上がってきている。取締役の検討課題および責任範囲の拡大に伴い、彼らの視点や意思決定が組織に与える影響も大きくなっている。マッキンゼーが実施した最新のグローバル調査の結果からも、取締役の役割と責任が一層複雑化していることが裏付けられた。1
本調査によると、多くの取締役は増大するプレッシャーに対処する手段として、経営陣との連携を強化していると回答している。連携の強化により、取締役として組織の優先事項への認識を深めるとともに、自身の役割を明確にし、価値創出に直結する業務へと時間を集中させることができる。なかでも、取締役会とCEOの関係が特に重要であることは周知の事実であるが、「自社の取締役会とCEOは、極めて効果的に連携できている」と回答したのは、全体のわずか3分の1にとどまった。一方で、経営陣と良好な連携体制を築いている取締役会の回答からは、連携強化に向けた3つの方法が示唆されている。それは、効率的かつ効果的な取締役会のプロセスを確立すること、CEOとの頻繁かつオープンなコミュニケーションを優先事項とすること、そして取締役会で強固なチーム文化を醸成することである。
業務の複雑化とその対応策
調査結果は、マッキンゼーがコンサルティング活動から得た所見とも一致している。取締役が担う業務はますます複雑化しており、その関与の度合いと専門知識への需要は高まる一方である。ビジネス環境が以前よりも予測困難になっているだけではなく、取締役が優先的に取り組むべき課題の範囲も拡大を続けている。調査対象となった取締役の3分の2が、過去2年間で取締役会の役割と責任の複雑性が増大したと回答している。さらに、今日の取締役会で取り上げられている多くのテーマ、例えば、生成AIやサイバーセキュリティ、脱炭素ネットゼロへの移行などは、10年前にはほとんど取締役会での議題に上がることはなかったものである2。一方で、取締役は全体的な監督責任や戦略方向性の策定など、従来の役割も担い続けている。
では、取締役はこのように増大する複雑性に、どのように対応しているのであろうか。この調査で具体的にどのような対応策をとっているかを尋ねたところ、最も多かったのは、「取締役会と経営陣との連携を強化している」(59%)という回答であった(図表1)。次いで多かったのは、「取締役会の業務に以前よりも多くの時間を費やしている」であった(52%)。実際、取締役が取締役会関連の活動に費やす日数は、年平均で2019年の25日から2023年には30日にまで増加している。
強固な連携によって生まれる価値
前述の通り、調査対象となったほとんどの取締役が、取締役会の成功には経営陣との連携が重要であると認識しているにも関わらず、取締役および経営幹部を含む全回答者のうち、「自身の取締役会とCEOは、極めて効果的に連携できている」と回答したのはわずか3分の1にとどまった。これは言い換えれば、多くの取締役や経営幹部には、経営陣との連携を強化することで、企業にさらなる価値をもたらす機会があるということである。マッキンゼーの経験からも、取締役とCEOの間で効果的な連携体制が確立されている場合、取締役会はより多くの時間とリソースを企業の最重要課題に集中できることが明らかになっている。加えて、競争環境やステークホルダーの動向など、自社を取り巻く環境に関するより詳細な情報を把握できるようになる。
CEOにとっても、取締役会との連携を強化することで、様々なメリットを享受できる。マッキンゼーのCEOエクセレンスに関する調査によると、優れた成果をあげているCEOは、経営陣と取締役会の責任範囲を明確にしており3、取締役会と信頼関係を築いて有益なインサイトを引き出している。彼らは、取締役会議長や主要な社外取締役との間に強固で透明性の高い関係を築くことに注力するとともに、個々の取締役との対話にも積極的に取り組んでいる。

取締役会の役割と責任の複雑性が高まる中で、経営陣との連携体制が取締役会にもたらす効果をより深く理解するため、私たちは「複雑性の増大を認識」し、かつ「CEOと効果的に連携」している取締役4の回答を詳細に分析した。このグループと、「複雑性の増大を認識」しているが「CEOとの連携が不十分」と回答した取締役5のグループとを比較したところ、前者が自身の取締役会が長期的な企業価値の創出に極めて大きな影響を与えていると回答した割合は後者より2倍高く、また取締役会としての機能が十分に発揮されていると回答した割合もはるかに高かった(前者の85%に対して、後者は47%)。さらに、CEOと効果的に連携している取締役は、戦略策定、人材マネジメント、リスク管理に至るまで、取締役会の重要な業務の様々な分野において、自身の取締役会が有効に機能していると評価している割合が高い(図表2)。
両者の間で最も大きな差異が見られるのは、取締役会の積極的かつ継続的な関与が求められる戦略的活動においてである。例えば、取締役会とCEOとの間で戦略的オプションを議論すること、戦略を継続的に見直すこと、戦略と自社のパーパスとの整合性を評価すること、自社内および業界における価値創出の源泉を経営陣がどの程度理解しているかを評価することなどが挙げられる。正式な決議などの受託者責任に関する活動とは異なり、これらの戦略的活動では、取締役会は経営陣と密接に連携することが求められ、組織の戦略に積極的に関わり、議論を重ね、建設的な意見を提示することが不可欠となる。マッキンゼーの様々なコンサルティング経験から、このように緊密な連携が求められる活動に効果的に取り組んでいる取締役会は、相対的に機動力が高く、自社に対する理解も深い傾向があることが確認されている。また、取締役としての役割の複雑性への対応力や、変化の激しい経営環境への適応力にも優れている様子が見受けられる。

取締役会とCEOとの連携を強化する3つの方法
調査対象者に取締役会の具体的な活動や運営について尋ねたところ、経営陣と強固な連携体制を築いている取締役会と、連携が不十分な取締役会との間に、いくつかの相違点があることが明らかになった。これらの違いこそ、連携が不十分な取締役会にとって、貴重な洞察となり得るものである。
1つ目は、効率的かつ効果的な取締役会のプロセスを確立することである。取締役会が適切に運営され、明確なプロセスや接点が確立されている場合、取締役は複数の場で同じ議題を繰り返し議論したり、生産性の低い会議を行ったりすることによる時間の浪費を回避できるほか、会社の重要な情報へのアクセス不足といった問題も防止できる。その結果、付加価値を生み出す活動に注力できる時間を増やすことにつながる。
調査結果によると、経営陣と強固な連携体制を築いている取締役会は、連携が不十分な取締役会と比べて、全体的に取締役会の運営が円滑に行われている割合が大幅に高い(図表3)。例えば、前者は「取締役会議長は会議を効率的かつ効果的に運営している」と回答する割合が後者の2.4倍にのぼり、「新任の取締役に対して、効果的に役割を果たせるように十分な研修やオリエンテーションを提供している」と回答する割合も1.8倍高くなっている。
効率的かつ効果的な運営を実現するその他の方法としては、責任分担の見直しを毎年定期的に行うこと、意思決定プロセスを明文化すること(これにより取締役会議長がより効率的に会議を運営できるようになる)、および議題項目に関する認識を統一すること(取締役会と経営陣が共通の優先事項に集中できるようにすること)などが挙げられる。
連携を強化するための2つ目の方法は、取締役会とCEO間のコミュニケーションを優先事項として位置づけることである。調査結果によると、効果的な連携が図れない主な要因として、議題に対する認識の相違、情報の共有不足、役割と責任の不明確さなどが挙げられている(図表4)。これらすべてが、CEOと取締役会との連携を妨げる障壁となり得る。


マッキンゼーが過去に実施した調査によると、CEOと円滑にコミュニケーションを図っている取締役会は、組織に関する情報を的確に把握し、取締役間の足並みを揃えやすいため、連携が不十分な取締役会と比べて、CEOに対して効果的な支援を提供する傾向がある。また、変化や危機にも迅速に対応できることが示されている6。さらに、取締役会の議題や役割・責任においても経営陣と認識を共有しやすくなり、取締役の時間と労力を効率的に活用できる。
したがって、CEOは次の取締役会までの間にも取締役と連絡を取り合い、対話を継続させることが求められる。ただし、そのために多くの時間を割く必要はない。実際、同調査の結果によると、経営陣との連携が良好な取締役が経営陣とのコミュニケーションに費やす時間は、他の回答者と同程度であることから、コミュニケーションに「どれだけ多くの時間をかけるか」よりも「その時間をどのように使うか」が重要であることが示唆されている。取締役会とCEOの双方にとって、頻繁かつ簡潔なコミュニケーションを意識することが重要であり、特に複数のチャネル(リアルタイムのメッセージアプリや月次のCEOレポート)を通じて、またCEOからのオープンな情報発信を通じて行うことが望ましい。CEOが判断に迷うような場合でも、常に情報を共有することが推奨される。
3つ目は、取締役会の場において、取締役が信頼と敬意に基づく強固なチーム文化を醸成することである。調査結果によると、経営陣との連携が良好な取締役は、連携が不十分な取締役と比べて積極的にその実現を目指しており、強固なチーム文化の構築に取り組んだり(前者の87%が実践しているのに対し、後者は44%)、チームビルディングに十分な時間を割いたりしている。 マッキンゼーは顧客企業とのプロジェクトの中で、取締役会におけるチームの連携体制を強化する方法について、経営陣や取締役会から助言を求められることが多く、必要に応じて外部からコーチを招いて支援する場合もある。また、取締役会に対してどのような洞察や専門性を求めるべきかについて、CEOが明確に把握できていないケースも散見される。
取締役会に強固なチーム文化が根づき、良好な連携体制を構築できれば、取締役とCEOの間でよりオープンで建設的な議論が促進されるようになり、取締役会は組織の喫緊の課題に迅速に対応できるようになる。このような健全な文化を定着させるには、例えば会食の場を設けたり、会議に生産拠点やサービスセンターへの視察を継続的に組み込んだり、定期的に取締役会議長とCEOが1対1で意見交換を行う機会を設定したりするなど、非公式な時間を共有することが有効であると考えられる。このような取り組みにより、取締役会議長とCEOとの個人的な信頼関係を深め、ひいては取締役会と経営陣全体の関係性を向上することにもつながる。
取締役の役割がますます複雑化し、責任範囲も拡大し続ける中、取締役会とCEOおよび経営陣が効果的に連携することが、これまで以上に重要となっている。このような連携強化の取り組みは、取締役の業務リストに新たな課題として加えるようなものではなく、むしろ取締役会がより効果的に機能するための、ごく自然で基本的なアプローチと捉えるべきであろう。企業にとって最大の価値を創出する活動において、特にこの重要性が高まっている。