はじめに
日本におけるLGBTQ+当事者は、成人人口の約5〜10%を占めると推計されており1 、LGBTQ+当事者が一部の企業や職場、業種に限られた存在ではなく、あらゆる組織において共に働く人材であることを示している。また、LGBTQ+当事者が職場環境において直面する課題は、特定の少数者への配慮という枠組みにとどまらず、企業がいかに人材を生かし、組織としての力を高めていくかという経営上の論点と密接に関わっていると考えられる。
そこで、マッキンゼーでは、日本のビジネスセクターにおいてD&I施策に取り組もうとする企業の一助となるよう、当事者が直面している制約や課題を捉え、その背景を明らかにするとともに、各社が自社の状況や制約を踏まえながら、何を優先し、どこから着手すべきかを判断し、次の一手を具体的に検討するための実践的な材料を提示することを目的に本稿を取りまとめた。調査手法としては、日本の大企業を対象とした従業員および人事担当者へのオンラインサーベイに加え、LGBTQ+当事者や人事担当者へのヒアリング調査を実施している。
本レポートに示す知見が、LGBTQ+に関連するD&I施策をより実効性のある形で推進するための指針となり、日本のビジネスセクターにおける組織能力の向上に寄与することを期待したい。
主なインサイト
調査の結果、LGBTQ+当事者は非当事者と比較した際に、就職において困難に直面する割合や、離職を検討・経験する割合が高く、職場へのエンゲージメントも低い傾向が明らかになった。加えて、昇進や処遇といったキャリアの中長期的な成果においても差分が確認された
- LGBTQ+当事者の平均25%が就職活動で性的指向・性自認を理由とする困難を経験したと回答し、特にトランス女性・トランス男性では40%超と高い割合を示した
- 当事者の33%が性的マイノリティであることを理由に離職を検討または経験したと回答し、トランス男性(59%)、トランス女性(48%)で特に高かった。ゲイ・バイ男性やシスその他男性でも31%が離職を検討または経験している
- LGBTQ+当事者全体で 54%が職場環境に何らかの課題を感じている。課題項目の選択割合が相対的に高かったのは、「心理的安全性が低い職場風土」「法律上の同性パートナーに関連する福利厚生制度の不足」「ロールモデル不足」であった
企業の取り組みについては、一定の成果が生まれている側面も確認されたが、施策実行の深度や組織への定着度と成果に大きなばらつきが見られた
- 施策の実行度を3段階に分類し、「実行段階1」は施策が限定的または属人的に運用されている初期段階、「実行段階2」は施策が制度・ルールとして整備され、安定的に運用されている段階、「実行段階3」は全社的に定着し、継続的にモニタリング・改善が行われている段階と定義。施策によるばらつきはあるが、50~60%の企業が何らかの施策を実行している一方で、実行段階3まで到達している企業は20%にとどまった
- 施策が実施されている企業に所属する当事者の77%が、少なくとも1項目で効果を実感。性自認マイノリティでは88%に達する。特に実行度が高い企業では、「満足感・幸福」「やりがい・達成感」「昇進意欲」などの指標が一貫して高い水準となった
企業のD&I施策の実施と深化の障壁となる主要因が示唆された
- 人事担当者へのサーベイでは、経営層や関係者との合意形成、推進に必要な人材や知見の確保、既存の業務環境や制度との整合といった点が、障壁の上位に挙げられた
- 施策実行度と、D&I担当の人数、LGBTQ+関連に特化した担当の有無、経営層の積極性、当事者の可視性、アライ3 の可視性の5つの要素と相関していることが確認された
本稿の調査は他のマッキンゼーの調査と同様に、我々の見解を反映して独自に実施したものであり、いかなる政府、他機関、企業、団体からの委託を受けたものではない。
第1章 日本のビジネスセクターにおけるLGBTQ+当事者と非当事者の差分、およびそれを裏付ける課題感
本章では、日本の大企業において、LGBTQ+当事者と非当事者の間にみられるキャリア上の差を示す。調査の結果として、LGBTQ+当事者は非当事者と比較した際に、就職において困難に直面する割合や、離職を検討・経験する割合が高く、職場へのエンゲージメントも低い傾向が明らかになった。就職・離職、昇進・収入、エンゲージメントといったキャリアの主要な局面において、当事者と非当事者の差分が累積していく様子が確認された。
これらの差分は、当事者自身の能力や意欲の不足を示すものではなく、職務機会へのアクセスや日常の職場での差別体験といった、企業側の制度設計や組織構造が、結果として当事者のキャリア形成に影響を及ぼしている可能性を示唆している。あわせて、当事者が職場で抱える課題感を12項目に整理し、「制度・ポリシー」「企業文化・風土」「ネットワーク・コミュニティ」の3領域に分類した。その結果、約半数の当事者がいずれか1つ以上の課題を抱えており、心理的安全性の低さ、セクシュアリティに関する福利厚生の整備、ロールモデル不足といった課題が多くの当事者に共通してみられることが明らかになった。
さらに、課題感の分布を属性別に分析した結果、当事者の中でも直面する課題の種類や大きさが異なることが確認された。これらの結果は、LGBTQ+当事者を一様な存在として捉えるのではなく、非当事者と同様に、個々人の多様な背景やキャリア段階を前提とした対応を検討する必要があることを示している。
1.1 日本のビジネスセクターにおけるLGBTQ+当事者と非当事者の差分
就職時に直面する困難および離職理由となり得る課題感
本調査では、LGBTQ+当事者の平均25%が就職活動で性的指向・性自認を理由とする困難を経験したと回答し、特にトランス女性・トランス男性では40%超と高い割合を示した (図表1)。実際に当事者からは、採用プロセスで性別区分や外見、書類上の性別情報が前提とされやすいことが指摘されており、自己開示の判断や説明対応に心理的負荷が生じている可能性がある。また、法律上の氏名・性別と外見が一致しない場合、面接で問われたり評価に影響したりするのではないかという不安や、公的書類提出により本人の意思にかかわらずトランスであることが明らかになる不安もヒアリングを通して指摘された。その結果、差別や不利益を避けるために、出生時の性別に合わせた服装や振る舞いを選ばざるを得ないのではないかという懸念の声も存在する。
離職意向については、当事者の33%が性的マイノリティであることを理由に離職を検討または経験したと回答し、トランス男性(59%)、トランス女性(48%)で特に高かった。性自認に関する就業環境や制度、周囲の理解の不足が影響している可能性があり、ゲイ・バイ男性やシスその他男性でも31%が離職を検討または経験している。
昇進および収入に関する分析では、属性別に平均年収、管理職比率および派遣職率を比較した(図表2)。
収入水準、管理職比率、派遣社員比率いずれにおいても差分がみられ、LGBTQ+当事者がキャリア形成の過程で企業における中核的な経験や役割に相対的にアクセスしにくい状況に置かれている可能性を示唆している。これらの差分は特定の単一の要因によって生じているわけではなく、昇進や処遇が過去の経験や評価の積み重ねに基づいて決定される中で、結果として職務機会や報酬の格差として顕在化していると考えられる。
エンゲージメント(企業満足度)における違い
当事者の中でも、属性によって非当事者との差分が現れる領域が異なることが確認された (図表3)。
本節で示した調査結果から、LGBTQ+当事者と非当事者の間に確認される差分は、就職、昇進、離職といった特定の局面に限定されるのではなく、キャリアの複数の段階にわたって一貫して存在していることが明らかとなった。これらの差分は、単一の要因ではなく、職務機会、職場環境、評価や業務経験といった要素が重なり合うことで、キャリア全体を通じた格差として表れていると整理できる。
1.2 職場環境でLGBTQ+当事者が抱える課題感
前節で示されたキャリアの局面における当事者と非当事者の定量的な差分は、当事者が職場で直面する課題感に関連していると考えられる。本節では、LGBTQ+当事者が企業においてどのような課題感に直面しているのかを整理するとともに、その内容が属性や役職によってどのような傾向がみられるのかを示す。
LGBTQ+当事者が職場で直面する主な課題
LGBTQ+当事者が職場で抱える課題感として、マッキンゼーが実施した当事者へのインタビューやオンラインサーベイの結果を踏まえ、12項目が特定された。これらは、「制度・ポリシー」「企業文化・風土」「ネットワーク・コミュニティ」という大きく3つの領域に分類できる(コラム「LGBTQ+当事者が職場で抱える12の課題感」参照)。
属性別の課題感
まず、LGBTQ+当事者全体では、 54%が12項目のうち、いずれか1つ以上の課題を抱えていることが明らかとなった。課題項目の選択割合が相対的に高かったのは、「心理的安全性が低い職場風土」「法律上の同性パートナーに関連する福利厚生制度の不足」「ロールモデル不足」であり、これらは所属企業で多くの当事者に共通してみられる課題感として位置づけられる(図表4)。
第2章 企業が取り組み得るLGBTQ+関連のD&I施策およびそのインパクトと実施状況
本章では、前章で確認した当事者の職場での課題認識を踏まえ、企業が取り組み得るLGBTQ+関連のD&I施策を体系的に整理するとともに、それらの施策が採用、就業継続、エンゲージメントといった人材マネジメントの主要領域にどのような影響を及ぼし得るのかを分析する。
施策実施による影響を見ると、LGBTQ+関連のD&I施策が採用、エンゲージメント、離職といった領域に貢献し得ること、また、施策の実行度が高いほどその効果も高いことが示された。そのため、D&I施策は単に着手するだけでなく深く成熟させることが肝要である。
具体的には、採用の面ではLGBTQ+を含むD&I施策の有無について特にトランスジェンダーは企業選択に影響する傾向が見られた。非当事者とゲイ・レズビアンは同程度であり、インクルーシブな企業であることが非当事者にも応募・入社の判断に影響を与え得ることが確認された。この結果は、D&I施策が特定の属性に向けた取組にとどまらず、企業全体の魅力や評価に影響することを示している。次に日々の就業体験に関わるエンゲージメントについては、LGBTQ+関連のD&I施策の実行度が高い企業ほど、当事者の満足感やモチベーション、定着意向などの指標が高い傾向が確認された。そして、就業継続の側面を見ると、職場環境や制度の未整備が離職の検討・判断に影響する一方、福利厚生や職場インフラといった基盤的な施策が整備されている場合は当事者が働き続けやすくなる傾向がみられた。
2.1 企業が取り組み得る施策
本節では、一般社団法人work with Pride (wwP)4 が公表する PRIDE 指標5 における評価項目や企業の取組事例を参照し、前章で確認された課題に対して、企業が取り得るD&I施策として13種類の施策を導き出し、「制度・ポリシー」「企業文化・風土」「ネットワーク・コミュニティ」の3領域に分類した。(コラム「13種類の施策の定義」参照)
これらの施策に関する企業での具体的な取組事例については、厚生労働省「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集」6 および wwP「PRIDE 指標 2025レポート」7 を参照されたい。
2.2 施策の実行段階 (成熟度)
本レポートでは、各施策の実行状況を一律に実施か未実施で捉えるのではなく、取り組みの進捗や定着度合いに応じて、実行段階を3つに分けて定義した(図表5)。本表は、施策の成熟度を評価するためだけでなく、次に取り組むべき観点を整理するための枠組みである。そのため、本表を活用することで、自社の現在地を確認するとともに、実行段階2・3へ進むための具体的な論点や手がかりを検討することができる (施策の実行段階については、コラム「施策の実行段階の定義」参照)。
企業による施策実行の現状を施策実行度も踏まえて評価すると、企業によって実行度にばらつきがあることが確認できた(図表6 )。施策によるばらつきはあるが、実行段階1以上で何らかの施策を実施している企業の割合は50~60%である一方で、実行段階3に到達している企業は20%程度にとどまった。
2.3 施策導入による企業へのインパクト
D&I施策の取り組みは、当事者の短期的な就業環境改善や安心感の醸成にとどまらず、採用時の企業選択、就業継続の意思決定、日々のエンゲージメントにも影響を及ぼすことが国内外の調査で示唆されている。さらに、こうした変化が積み重なることで、人的資本の質や組織風土の改善を通じ、企業価値の向上やイノベーションの創出といった中長期的な経営指標にも連動する可能性があることも指摘されている 8。
採用競争力の向上
就職活動時に企業のD&I施策を重視すると回答した割合は、非当事者でも約25%、性的指向に関するマイノリティ当事者で約27%、性自認に関するマイノリティ当事者で約41%である(図表7)。これは、D&I施策が特定属性のみの関心事項ではなく求職者にとって企業評価の一要素であることを示す。
また、図表8が示す通り、当事者・非当事者ともに重視している施策は必ずしもLGBTQ+当事者向けに特化したものではなく、育児・介護支援や柔軟な働き方など、生活支援や働き方にかかわる領域を最も重視している。
D&I施策の取組が採用に与えた影響の調査では、規模を問わず半数前後の人事担当者が「効果があった」と回答した。従業員 5,000 人以上の大企業では44%程度であるのに対し、1,000 人未満の企業では 55%が効果を認めており、相対的に規模の小さい企業ほど効果を実感している傾向がみられた(図表8)。これらの調査結果から、LGBTQ+を含むD&I施策は、採用市場において企業が選ばれるための重要な要素となっていることが確認できる (コラム「企業選択におけるD&I施策の重要性」参照)。
エンゲージメントへの影響
図表10では、施策が実施されている企業に所属する当事者の77%が、少なくとも1項目で効果を実感していることが示されており、性自認マイノリティでは88%に達する。図表11、12では、施策実行度別にエンゲージメント指標を比較しており、実行度が高い企業では、「満足感・幸福」「やりがい・達成感」「昇進意欲」などの指標が一貫して高い水準にある。特に、「スキル・成長」「昇進意欲」「やる気・モチベーション」といった成長や生産性に関わる項目では実行度が低い企業と高い企業の差が大きいが、これは、施策が一定の水準まで整備・運用されることで、当事者が中長期的なキャリア展望を描きやすくなっている可能性を示唆している。
離職意向の抑制
図表13・14は、離職を検討・経験した当事者がどの課題を理由に挙げているか、またどの施策が十分であれば離職を回避できたと考えるかを示している。性的指向マイノリティでは心理的安全性や福利厚生制度の整備不足が、性自認マイノリティではコミュニティや制度・インフラの不足が上位に挙がる。これらの施策は、職場での安心感や公平性に直結する施策であり、未整備の場合には日常的な不安や不公平感を生みやすい一方で、制度として整備・運用されていれば、当事者が働き続けられると判断する重要な要因となる。
第3章 施策実施において企業が直面する障壁および施策実行度を高めるための方策
本章では、D&I施策推進の過程で企業が直面する障壁と、障壁を乗り越えるために必要となるステークホルダーの巻き込みについて整理した。
人事担当者へのヒアリングやアンケート調査を通して、D&I施策を推進する過程で企業が直面する障壁を整理した結果、障壁は施策の検討から実行・定着に至るまでの各段階に存在し、課題の可視化、意思決定、実行体制や基盤整備といった複数の要素が重なり合うことで、施策の推進が停滞する状況につながっている可能性が示唆された。特に、経営層や関係者との合意形成、推進に必要な人材や知見の確保、既存の業務環境や制度との整合といった点は、多くの企業に共通する障壁であった。
特に施策の実行度と深度を高める要素を定量的に分析したところ、D&I施策の担当者数、LGBTQ+関連施策の担当者の有無、経営層の積極性、オープンな当事者の存在状況、アライの存在状況の5つが相関することが特定された。このことから、経営層、人事、アライなど複数のステークホルダーの関与を適切に引き出すことや、当事者の声を可視化するとともに、施策が継続的に推進されるための体制を整えていくことが施策実行度を高めるために肝要であると言える。
そのため、本章の後半では、各ステークホルダーの効果的な巻き込み方を整理した。 例えば、経営層については、経営課題や企業価値との関係性を示して理解と関与を得ることで、予算や優先順位といった構造的な壁を乗り越えられる。アライについては、問題意識や関与度に段階性があることを踏まえ、無理のない入口から関与を促し、徐々に役割を広げていくことで、施策を一部の担当者に依存させず、組織全体に浸透させていく道筋を示す。当事者については、関与の動機や関与度に幅があることを前提に、それぞれに適した関与の形を設計する必要があることを示す。
3.1 施策実行上の障壁
施策を実行するにあたり、企業が実際に直面している障壁について、人事担当者へのヒアリングとサーベイをもとに検証した結果、施策の「検討段階」「実行中」の2段階において発生しやすい障壁として8項目が浮き彫りとなった (コラム「企業が直面しがちな障壁」参照)。
全企業平均で各障壁に直面する割合の比較
3.2 施策実行度の関連要素
人事担当者へのサーベイ結果をもとに分析を行ったところ、企業のD&I施策の実行度は、人事体制、経営層の積極性、当事者・アライの可視性といった5つの要素と特に相関していることが確認された(図表17; コラム「施策の実行段階に影響を与える5つの要素」参照)。
3.3 各ステークホルダーに対して関与を促進する方策
前節の分析結果から、施策推進にあたっては経営層やアライなど、関連ステークホルダーの巻き込みが実行度を高めるために肝要と言える。実際に人事の視点から見て、LGBTQ+関連のD&I施策を推進するにあたり、経営層、アライ、当事者がどのような形で関与し得るのかについて、具体的な事例を交えながら、そのあり方を示す。
経営層の巻き込み
経営層の関与は、施策推進における最重要要素の一つである。経営課題や会社全体の人的資本戦略との接続を明確化し経営層を巻き込むことで、社内における合意形成や予算確保、リソース不足といった構造的な障壁に対応しやすくなり、職場インフラ整備など初期投資を伴う施策の実行可能性が高まる。また、経営層にはフォーマルな意思決定や資源動員だけでなく、社内外での発信という役割も期待される。社内向けには、経営層からの明確な意思表明や継続的な発信は、企業文化・風土に大きな影響を与える。さらに、対外的な発信によって採用市場における企業魅力向上や、LGBTQ+当事者・D&I関心層からの応募促進につながる。PRIDE指標など外部評価の取得や公表は、社外のみならず社内への周知・意識向上にも寄与する。
アライの巻き込み
アライは日常的な言動やチーム内の雰囲気づくりを通じて、当事者の心理的安全性を高め、安心して働ける環境を醸成する役割を担う。D&Iを特別な施策ではなく、誰にとっても働きやすい職場環境を構築するための前提条件・行動規範の一部として根付かせる土壌を形成する点に意義がある。
アライの関与は、D&I施策を一部の当事者や担当部署に限定せず、組織全体の取り組みとして定着させる上で不可欠である。アライが加わることで、全社的な浸透や継続的関与が必要な施策の実行力が高まる。特に、ERGの運営、メンター・スポンサー制度、社内外交流の促進など、多様な立場の協力を要する施策において重要な役割を果たす。また、リソース不足や運用徹底の課題を補完する存在にもなり得る。
一方で、アライの取り組み動機や関与度には個人差があるため、多様な関わり方を前提とした設計が求められる。
ここでは、D&I施策への関与度を軸に、施策に関与し得るアライを3段階に分類し、それぞれの特徴や期待される役割、企業側がどのような形で関与を後押しできるかという観点から整理した(図表18)。
当事者の巻き込み
当事者の経験や課題認識を取り入れ、施策設計に反映することで、表層的な配慮にとどまらず、実態に即した制度運用へと近づけることができるため、LGBTQ+の施策実効性は高まる。特に、LGBTQ+研修など行動変容を促す施策においては、多様な視点を反映することで内容の具体性や精度が高まる。
一方で、施策の設計や推進を当事者の自発的な発信活動のみに依拠し、声が挙がらないからといって施策推進をとどめることも理想的ではない。当事者の声が可視化されていない場合、それは当事者個人の消極性の問題ではなく、心理的安全性や信頼関係の醸成が十分でないことを示している可能性がある。声が上がらない状況そのものを、組織文化や制度設計上の課題として捉える視点が求められる。
このような課題への対応として、匿名アンケートの実施や、開示範囲を段階的に選択できる「ゾーニング」に基づくコミュニティ設計が有効である。社内全体への開示、当事者コミュニティ内のみへの開示、制度利用に必要な最小限の関係者のみに限定した開示など、複数の選択肢を設けることで、秘匿性を担保しながら当事者が自身の状況や希望に応じて関与できる環境を整えることができる。
本節で整理してきたように、LGBTQ+に関するD&I施策の推進にあたっては、経営層、アライ、当事者といったステークホルダーごとに置かれている立場や関与の仕方が異なり、それぞれに応じた関与の設計が求められる。
重要となるのは、すべてのステークホルダーに同一の水準の関与や負担を求めるのではなく、それぞれの関心や立場、制約を踏まえた関わり方を設計することである。本節で示した考え方や事例は、施策推進を検討する際の参考として活用されることを意図している。また、詳細版では各企業の状況に応じたネクストステップを一案として提示している。ぜひ、あわせて参照されたい。
今後の展開
本レポート概要版では、 LGBTQ+当事者が職場において直面している課題を起点に、企業が取り得る施策の内容やその実施状況、ならびに施策が当事者や企業にもたらし得るインパクトを整理してきた。加えて、施策を前進・定着させる過程で生じやすい障壁とその対応策を示すとともに、施策実行度を高めるための方策として主要ステークホルダーの巻き込み方を提示した。加えて、本レポート詳細版では、概要版第3章で示した施策実行度を高める5要素を軸に多変量クラスター分析 による企業類型化を行い、企業類型ごとのネクストステップを仮説的に示している。
一方で、施策実行度の向上については、すべての企業が一様の対策をとればよいわけではない。企業ごとの組織文化や事業環境の違いによって、LGBTQ+関連のD&I施策の進め方や直面しやすい障壁が異なるため、各社が自社の現在地を客観的に把握し、実行可能なネクストステップを描く必要がある。そうした問題意識から、本レポートにおいて提示したアンケート調査やヒアリングに基づくファクトベースを更に深化させるために、我々は今後も日本の様々なステークホルダーと対話を重ねていく。このような対話を通じて、各ステークホルダーが直面する課題について解像度を高め、D&I推進に取り組む日本企業にとって有益な知見の発信を継続していきたい。