アフターマーケットにおけるサービス事業は、いまや世界の製造業の決定的な差別化要因となっている。かつて補完的な位置づけと捉えられることもあったサービス事業は、今や競争力とレジリエンス(ビジネスにおける回復力や耐久力、再起力 )を支える中核的な柱へと進化した。強固なサービス事業を構築している企業においては、顧客との関係がより緊密に保たれ、安定した収益基盤を確立することができている。その結果、こうした企業は、他の企業と比べて、より高い利益率と2倍の株主総利回り(TSR)を実現している。
マッキンゼー・サービス・ベンチマークは、サービス事業が、多くの産業においていかに重要な役割を果たしているかを示している。サービス事業における収益は、契約やサブスクリプションを通じて需要が安定しやすいため、製品収益に比べても変動が小さい。また、景気変動の影響も受けにくく、景気が後退する局面においても、顧客はサービスへの支出を維持、あるいは増やす傾向にあることが分かっている( 図表1) 。
製造業の大手企業においては、サービス事業による収益が、製品による収益に匹敵することも珍しくない。特にサービス事業に重点を置いている企業では、平均して売上げの47%をサービス事業が占めている。なかでもアフターマーケットにおけるサービス事業は、初期販売後にも部品供給・保守・デジタルサポートを提供することを通じて顧客との関係を長く維持できるだけでなく、極めて高い収益性と、製品販売単体の最大4倍の利益率を生み出している 。
サービス事業は、企業に財務的な安定性をもたらすだけでなく、適応力の高さという意味でも価値を発揮する。サービス事業においては、提供の内容や形態を柔軟に変化させたり、新たなデジタルソリューションを活用したりことができるため、変化する顧客ニーズにも迅速に対応することが可能である。多くのサービス施策は、わずか3~6カ月で収益効果を発揮する。投資家の間でも、サービス事業が持つ可能性については同様の認識があり、サービス事業への注力度が高い企業は、そうでない企業に比べてTSR がほぼ2倍となる傾向がある( 図表 2) 。
デジタル時代におけるアフターマーケットサービス
デジタル分野における様々な革命的変化は、アフターマーケットにおけるサービス事業のあり方を大きく変化させており、先進的なグローバル企業はすでにその恩恵を享受している。例えば、ある大手農業・建設機械メーカーは、サービス中心のビジネスモデルへと大胆に転換し、2,600人の専任社員を擁するデジタルサービス部門を新設した。この取り組みにより1,500億ドル規模の新たな潜在的事業機会が特定され、年間10% の継続的な収益成長の基盤が出来上がった。同社は、2030年までにソフトウェア起点の売上げを250億ドルまで拡大することを目標としている。
技術の急速な進歩は、アフターマーケットにおけるサービス事業の可能性をさらに広げ続けている。各企業は、ビッグデータ、IoT センサー、機械学習、拡張現実 (AR)、エネルギー効率の高いコンポーネント等を活用し、予知保全、コンサルティング、生産性向上を実現している。更に次なる大きな機会として、生成 AI による、高度なコンテンツ生成、ユーザーとの対話、トラブルシューティング支援が可能になっている。
例えば、北米の通信企業は、AIを活用したスケジュール最適化やダッシュボード、予測ツールによって、日々の現場サービス業務を最大25% 程度削減した。エレベーター・エスカレーター企業は、IoTを活用した予知保全でダウンタイムを50%削減した。ある産業機器の大手ディストリビューターは、技術者のトラブル対応を支援する生成AIコパイロットを導入した。また、エネルギー管理のリーディングカンパニーは、接続データと現場の専門知識を組み合わせ、状況に応じた予防保全を実現している。
日本が持つサービス文化という強固な基盤
日本は長年にわたり、卓越したサービスを誇る文化で知られてきた。製造業では、製品の品質の高さだけでなく、顧客の期待を常に上回る姿勢についても評価されてきた。24時間体制のサポートや細やかなサービス対応はその象徴であり、顧客との強固な信頼関係の素地を築いてきたと言える。
しかし、この卓越したサービス文化がサービス事業主導での企業成長につながっているかというと、必ずしもそういうわけではない。マッキンゼーは、航空宇宙、自動車、エネルギー、重機、産業オートメーション、医療機器、製薬の7セクターに属する日本の主要企業109社の2024年度アニュアルレポートを分析した。その結果、サービス部門の損益を別立てで開示していた企業は28% にとどまり、開示企業においてもグローバルリーダーに比べ28ポイントの業績差が見られた ( 図表3)。
一方で、競争環境は急速に変化している。自動車業界では、大手タイヤメーカーがメンテナンス性とトレーサビリティを高めるRFIDタイヤを導入し、設備メーカーはライフサイクルマネジメントサービスで売上げの最大40%を目指している。航空業界では MRO( 整備・修理・オーバーホール )投資が拡大し、建設機械業界ではデジタル車両情報システムによってサービスと効率の新たなスタンダードが形成されつつある。日本企業にも、こうした新たなスタンダードへの対応に向けた競争力の強化が求められている。
グローバル市場でも課題が顕在化している。日本企業は、国内で強固な顧客基盤を維持する一方で、海外市場ではサービスの現地適応に苦戦している。グローバル市場においては、日本企業は、地域の販売代理店や流通パートナーを介した間接的な取引形態をとることが主流であるため、グローバルな顧客基盤への直接的なアクセスが限られている。結果として、より対応力のある競合によって事業機会が奪われている。このままでは、革新的なサービスやソリューションへの需要が急速に高まる地域において、日本企業は取り残されるリスクがある。それでも、日本の製造業は、製品革新、品質、そして卓越したサービス提供という実績を背景に、こうした需要に応えるだけの十分な競争力を備えていると考えられる。
日本企業が「サービス事業で勝つ」ために
日本の製造業が根づかせてきた優れたサービス提供文化は、変革に向けた強固な基盤として活用 することができる。この文化を活かしながら運営面のボトルネックを解消し、デジタル技術を取り 入れることで、日本企業は国内外で新たな価値を創出できる可能性がある。特に、AI やデジタル 技術の台頭は、日本の製造業にとって大きな好機である。これらを活用できる企業は、アフター マーケットやサービス提供の在り方を刷新しながら、利益プールを拡大しつつ、日本が長く築いて きた「顧客第一」の評価も維持することができる。ただし、技術革新を進める中では、日本の製 造業を特徴づける「人の手による価値提供」とのバランスをどう保つかが課題となる。
変革を進めるためには、相互に補完し合う三つの柱に基づく以下のアプローチが有効である。
1. コマーシャルエクセレンス
アフターマーケットにおけるサービス事業は、設備自体の販売の最大4倍もの利益率を生む可能性があるにもかかわらず、日本企業では必ずしも十分に活用されていない。この機会を確実に捉えるには、顧客のセグメンテーション、価格設定、規律をもった営業活動への取り組みが不可欠である。コマーシャルエクセレンスの構築に向け、企業が取り組むべき要素は次のとおりである。
- 顧客セグメントの特定 : 製品ラインや顧客属性に基づき、アフターマーケットの機会を細かい粒度で分析する
- セグメントごとに最適化した市場攻略戦略の構築: セグメントごとにアプローチを最適化し、差別化されたサービス階層やダイナミックプライシングモデルを組み合わせる。明確な価格体系を確立し、顧客の期待に応えることで、収益性を確保しつつ信頼を維持する
- 目標の設定 : 全社戦略と整合する測定可能な成長目標を設定する
- 戦術的リードの創出 : 戦略目標を、顧客・製品レベルの具体的行動へと落とし込む。地域パートナーと連携することで市場知見や流通網の構築を目指し、AIを活用して日本国外でのリード創出や顧客との関係構築を後押しする
- 「ウィンルーム」の設置 : 目標進捗のモニタリング、説明責任の明確化、成功事例の共有を行うための中核拠点を設ける
こうした取り組みを組み合わせることで、高収益の機会を確実に捉え、ロイヤルカスタマーを支えるサービス卓越性を強化することが可能になる。
2. サービス提供効率の向上
サービス事業の収益性を持続的に高めるには、オペレーションの効率化が不可欠である。技術者の生産性は、リモート支援、予知保全、AI によるトラブルシューティングといったデジタルツールの活用によって向上し、サービス対応の需要を5~10% 削減しながらも、生産性を10〜30% 引き上げることが可能になる。
AI やアナリティクスは、バックエンドの領域でも大きな価値を生む。需要連動型の在庫および品揃え計画ツールを導入した企業では、在庫を10~20%削減しながら、スペアパーツの供給率を高め、顧客満足度の向上とコスト削減を同時に達成している。また、倉庫や技術者配置を含むサービスネットワークの地理的最適化により、顧客離脱率を20~50% 低減させた事例もある。サービス提供効率を高めるための主要ステップは次の通りである。
- 現場サービス体制の評価 : 現場観察や従業員調査を通じて、プロセス、システム、人材の現状を精査する
- ギャップ分析とユースケースの創出 : パフォーマンスのボトルネックを特定し、優先すべきデジタルおよびオペレーション上の施策を明確にする
- 価値実現ロードマップの策定 : サービス体制の目指す姿を描き、潜在的価値を定量化し、変革のビジネスケースを構築する
これらの取り組みによって、オペレーションのレジリエンスを高めながらも、顧客が日本の製造業に期待する迅速な対応力と職人技を担保することが可能となる。
3. 顧客中心のイノベーション
顧客の期待は世界中で高まり続けている。経営幹部250人を対象にした最近の調査では、過去10年間でサービス提供者のパフォーマンスが改善したと感じる割合はわずか30% にも満たず、20% は10年前より満足度が低いと回答している。小幅な改善では、顧客の期待に応えることは難しい。
先進企業は、顧客体験全体を再構築し、Equipment-as-a-Service (EaaS)、サブスクリプション、循環型経済モデルといった新たなビジネスモデルを導入している。こうしたモデルは、顧客とのエンゲージメントを深め、ライフタイムバリューを拡大し、日本が長年培ってきたサービス卓越性へのコミットメントをさらに強化する。
日本の製造業は、デジタルトランスフォーメーションと人間中心のイノベーションを組み合わせることで、従来の「事後対応型のメンテナンス」から「能動的に価値を創出するサービスモデル」へと進化することができる。その結果、収益性の更なる向上だけでなく、サービス分野においてグローバルリーダーシップの座に君臨することも可能となるであろう。
世界の競合企業がサービス事業戦略を加速させる中、日本の製造業とて悠長に構えている余裕はない。品質と信頼という強みを土台に、デジタルとAIを活用したイノベーションを取り入れることで、アフターマーケットサービスを「補完機能」から「グローバル成長と競争優位の中核エンジン」へと再定義することができる。