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グローバルな視点から見た日本の農業の現在と今後の発展

日本の農業は、生産性の改善と輸出の拡大に向け動き始めている。政府が掲げる高いアスピレーションを実現するには、新たな取り組みも必要となる。

日本食と日本の食品は質の高さと風味の豊かさで世界的に認められているものの、日本の農業は自動車やハイテクといった産業ほど成功していない。伝統的な「和食」などのニッチな分野が輸出で何十億ドルも稼ぎ出している一方で、農業の輸出額は何十年間も伸び悩んでいる。

統計が確認できる直近2013年の農業生産高は580億ドルと、1985年の410億ドルと比較した年平均成長率はわずか1%にとどまった。1960年以降、日本からの食品の輸出総額が伸び悩んでいるのに対し、他国の輸出は大幅に拡大している(図表参照)。1960年から2010年の50年間で日本の農産物輸出額は30億ドルしか増加しなかったのに対し、ドイツ、オランダ、米国では1,000億ドル近く増加した。

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こうした中、安倍政権は農業部門において大胆な目標を掲げている。政府は、農産物生産量を2013年の5,000万トンから2025年までに5,400万トンに増やし、増加分のほとんどを輸出に回すというのだ。さらに、この間の生産者の所得を290億ドルから350億ドルと21%拡大し、輸出からの収入を2015年の60億ドルから2020年までに少なくとも100億ドルに引き上げることを目標としている。

目標達成の具体策を見極めるために、マッキンゼーでは、日本の農業部門に関連するトレンドについて、世界、日本国内、企業レベルで調査を実施した。こうして誕生した「日本における農業の発展、生産性改善に向けて」では、日本の農業のユニークさについて検討を加え、世界と日本の市場環境に注目し、日本の農業の発展について具体策を提案している。

日本の農業はいくつもの構造的要因によるチャレンジに直面している。生産者の高齢化をはじめ、輸入される肥料や種子コストの上昇、生産性改善を阻む断片的な産業構造、高い流通コストなどである。

一方で、世界的なトレンドは農業部門の復活を目指す日本の努力を後押しする。人口の増加と生活水準の向上を受けて、世界の食料消費は拡大の一途をたどる。世界の食肉需要が2009年から2030年にかけて70%増大する一方で、生産量トップの農産物であるトウモロコシ、コメ、大豆、小麦もほぼ同じ期間に40~50%増加する見通しである。

需要の中身も変化しつつある。生活水準が向上するにつれて外食や加工食品の消費が増大するため、自宅で料理するための生鮮食品や肉類の購入量が減る。家庭で消費する生鮮食品の割合は1980年の約30%から2011年には16%に低下した。

一方、需要の拡大が見込まれる半面、供給は圧力にさらされる。主要農産物の生産量の伸び率は1960年代以降低下し、2010年にはわずか1%に落ち込んだ。資源不足も懸念され、水資源の枯渇、温室効果ガス、土壌汚染、その他の要因により世界の耕作地の20%が農業に適さなくなっている。

農産物需要の世界的な拡大と供給懸念は日本が生産性改善と輸出目標を達成するチャンスにつながるものの、まずは次の課題を克服することが先決である。

  • 原材料の確保: 肥料や種子など農業に必要な原材料は海外の企業に押さえられ、先行きの不透明さや投入価格の相対的な上昇を招いている。中国の成功例を参考に、日本企業もバリューチェーンの上流を押さえている企業とのパートナーシップを検討してはどうだろうか。
  • 原材料コストの削減: 固定費、変動費ともに削減は可能である。日本のある大規模農場は、供給業者との交渉や消費管理の改善を通じて、同規模農場の平均の6割程度までコストを削減した。デマンドマネジメントでは、土壌分析を強化して必要最小限の肥料を的確に計算し、適正な肥料の使用を推進することが考えられる。固定費は中長期のコスト削減につながる。垂直型農園は、必要な水と土地を大幅に抑制しつつ平方メートル当たりの生産量を拡大できる。その他の植物工場技術も開発途上にある。
  • 農業バリューチェーンの効率化: 日本の農業のサプライチェーンコストは生産・輸入額の9割にも上る。バリューチェーンの効率化は資源の効率的な活用と全体の生産性向上につながる。ビッグデータを活用すれば、生産者はより正確に調達・生産日程を予測できる。
  • エンドマーケットとのコラボレーション: 生産者、食品加工会社、物流会社、その他のステークホルダーとの協力を深めれば、生産コストを抑制しながら、ムダをなくして資源を効率よく活用し、需要の変化に迅速に対応できる。供給業者は、共同組織を結成して設備を共有し、共通の資源を管理したり購入した生産物を一括したりすることで交渉力を強化する。生産者と協力して最新の農業技術や農法のトレーニングを実施する食品加工会社も登場している。
  • アグテックの可能性: 新たなテクノロジーは農業に大きな価値をもたらす可能性を秘めている。ベンチャーキャピタルによる農業に特化したアグテック企業への投資は2013年は9億ドルであったが、2015年には46億ドルに増加した。ビッグデータを活用すれば、天候、土壌の状態、その他の要因に関する情報を選り分けて、最適な肥料や作付パターンを提案できる。

日本の農業が停滞を乗り越え、政府が掲げる生産高目標を達成し、世界的に増大する食料需要に応えることは可能である。そのためにはまず、パイロットプログラムで価値を実現し、広範囲で実践するプランを作成する必要がある。最大限の成功を引き出すには、生産者、食品加工会社、政府省庁、学術機関などすべてのステークホルダーが共通の目標に向かって協力することが不可欠である。

著者について

Jakob Fischerはマッキンゼー・アンド・カンパニーミュンヘンオフィスのシニアパートナー、Lutz Goeddeはデンバーオフィスのシニアパートナー、田中正朗は東京オフィスのパートナー、山田唯人は同アソシエイトパートナーである。

レポート作成にあたり有益な助言やリサーチに協力いただいた、Anja Bühner-Blaschke、Nicolas Denis、Victor Guzik、川西剛史、Yunzhi Li、内藤祥平、Karl Tojicに感謝の意を表する。

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