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R&Dの生産性向上こそが日本企業を次世代へ導く

R&Dの生産性向上こそが日本企次業を世代へ導く

今こそ求められるR&Dの生産性向上: 日本企業におけるR&Dは、もはや必ずしも世界トップクラスにあるとは言えない。日本のR&D支出は依然として高い水準にあるが、R&Dの生産性ランキング、特許取得件数ランキングともにグローバルにおける順位は低下している。

本稿では、日本企業のR&Dにおける課題と、生産性改善に向け取り組むべき5つのテーマを取り上げる。マッキンゼーの調査によれば、日本企業が世界のベストプラクティスを取り入れることで、R&Dの生産性を30%向上させることも十分に可能である。このインパクトは、日本の産業界全体で年間約1~2兆円(約90~180億ドル)におよぶコスト削減を産むだけでなく、リソースの基礎研究やイノベーション、新商品開発への再配分による更なる成長にも繋げることができる。

過去の遺物にもう頼ってはいけない

日本は、過去数十年にわたり、人々の生活を大きく変える技術革新や商品を生み出す国として高い評価を得てきた。しかし、世界は目まぐるしい勢いで変化し続けている。デジタルやアナリティクス、ロボティクス、3Dプリンティングなど、ただの流行語に過ぎないと考えられていた技術が、今ではさまざまな業界に破壊的な影響を与えている。

日本政府は、これらの破壊的技術から生み出される機会を成長戦略の中核としており、人工知能(AI)やセンサー、自動化などの技術を活用して、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムを構築することを目的とする「ソサエティ5.0」を推進している 1 。政府の政策文書では、「第4次産業革命の技術革新をあらゆる産業や社会生活に取り入れる」ことにより、需要創出や投資活性化につなげていきたいとしている 2

環境が目まぐるしく変化する現代においては、各業界で日本企業が競争優位を確保するうえでかつては有効であった手段は、必ずしも通用しない。R&D幹部を対象にマッキンゼーが実施したグローバルサーベイでは、商品開発に変化をもたらしている破壊的技術に対する備えが十分にできていると回答した日本企業はわずか14%であった。また、マッキンゼーによるインダストリー4.0技術に関する意識調査では、特に製品化までの時間短縮、生産の柔軟性や組織のアジリティ(機敏性)の向上に関する新しい技術について、日本企業は他国企業に比べて懐疑的であることが明らかになった(図表 1)。これらは、日本企業のR&D幹部がグローバルで起こっているメガトレンドを過小評価している可能性、ひいては対応においてライバルの後塵を拝するリスクを孕んでいることを暗示している。

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投資回収ができていない日本企業のR&D

日本の研究開発費総額の対GDP比率はこの20年で常に3%を超えており、世界最高水準にある 3 。しかし、特許取得件数は毎年低下し続け、2000年比で25%低下した(図表 2)。世界の特許取得件数における日本の企業や研究機関の割合は、2000年には30%以上のシェアを占めていたが、今や10%にまで低下している。業種別に見ると、日本は、半導体技術に関する特許取得件数においては依然として世界をリードしており、医療技術に関する特許取得件数の割合もわずかながら増加している。一方、AV技術やコンピューター、通信など、かつて勢いのあった分野では、中国などのライバル国に追い抜かれている。

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日本企業は、研究開発投資が技術革新に結びつきにくい状況に陥っている。1996年以降、日本の全要素生産性(技術革新の指標)の伸び率は他国を下回っている(図表 3)。

日本銀行の調査によると、米国では、研究開発費への支出が多い企業ほど全要素生産性の伸び率が高いという関係性が見られる一方で、日本ではそのような相関が見られないことが示唆されている(図表4) 4

また、同行は、日本企業の研究開発が生産性の向上につながっていない理由として、1) 企業内での研究開発が旧製品の改善の粋を出ないものにとどまり、革新的な製品開発が行われていないこと、2) 必ずしも消費者ニーズをとらえた製品開発につながっていないこと、3) 他企業や大学との技術協力やオープンソース技術の利活用ではなく、自社内での技術開発にこだわる企業が多いことなどが考えられるとしている。

日本のR&D組織が重点的に取り組むべき5つのテーマ

マッキンゼーは、2019年に日本企業のCTOやR&Dリーダーを対象にサーベイを実施し 5 、R&D組織のパフォーマンスと関連性の高い要素を評価した。そのサーベイ結果を、日本人CTOとの個別インタビューやコンサルティングプロジェクトによる知見と組み合わせ、日本のR&D組織が重点的に取り組むべき5つのテーマを特定した。

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1 . 失敗に終わるデジタル・アナリティクス

デジタル変革は世界中で行われているが、目に見える結果を出すことは極めて難しい。マッキンゼーの調査では、世界の2,000人以上の経営幹部のうち、85%以上がデジタル改革はうまくいっていないと回答している 6

別のサーベイでは、R&Dのデジタル化に向けて戦略を策定していると回答した日本のR&D幹部は45%に過ぎなかった。インタビューでは、社内のレガシーシステムの存在や、新しいデジタルプロセスへの抵抗感、意思決定に必要なデータの不足など、さまざまな課題が浮かび上がった。

2 .ヒエラルキーで進まないアジリティ

サーベイによれば、競合他社に先駆けて製品開発に成功し新たな市場に参入していると答えた日本企業はわずか23%で、アジャイル開発の導入に成功したと回答した企業は30%を下回っていた。

アジャイル開発のアプローチはトヨタ式のリーン生産方式をベースにしており、本来日本企業とは相性が良い。しかし、柔軟かつ継続的に進化し続けるアジャイル開発のアプローチは、多くの日本の開発組織の特徴であるヒエラルキーや、入念に計画を立ててから実行する企業文化には適していないことが考えられる。インタビューでは、ハードウェア要素が強いプロジェクトにおいては、早い段階で仕様を固め、試作から量産にスムーズに移行させる必要があることから、アジャイルの手法を取り入れることは困難といったコメントが挙がっていた。

3. 世界のベストタレントは日本を選択しない

サーベイ回答者のうち、自社は有能なエンジニアを採用・雇用できていると回答した割合はわずか28%であった。また、外資系企業の回答者のうち、研究開発拠点として日本を選んでいると答えた企業は24%であった。

技術の変化も大きく影響している。日本では現時点でIT人材が24万人不足しており、2030年には60万人近くまで拡大する見通しである。インタビューにおいて、日本企業のR&D担当幹部は、人事・採用戦略を見直したにもかかわらず、ソフトウェアエンジニアリングやプロジェクトマネジメント分野での人材の確保に苦心しているとコメントしている。

デジタルスキルを持つ人材に対する需要の増大も影響している。ある経営幹部によると、有能な学生はAIなど今日注目されている分野に関心があり、機械工学や電子工学を専門とする人材の確保が難しくなっているとのことであった。

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その一方、日本は世界中の高い技術を持つ人材を惹きつける魅力に乏しい。タレント獲得における各国の魅力度を調査したサーベイでは、日本はOECD加盟国中20位となっている。日本は、国を挙げて働き方改革を進めているにもかかわらず、平均勤務時間はOECD加盟国の平均を大幅に上回っている。

4. ファクトベースのポートフォリオ管理が欠如

サーベイの回答者のうち、投資対効果を最大化するためにR&Dプロジェクトポートフォリオを管理していると答えた回答者はわずか三分の一であった。その理由として、ROIを評価するためのデータが不足していることを挙げる回答者がいる一方で、戦略上重要なニッチ領域で商品・サービスを展開する必要性や重要顧客からの要望への対応など、ROI以外の要素が絡むため、意思決定は一筋縄ではいかないとする回答者もいた。

さらには、多くの企業が利益の大半をごく一部の商品から得ていることから、サーベイの回答者の中には、長期的な成長ではなく目先の業績を優先してR&D投資の判断が下されているとし、現時点で利益をあげている部署や製品に集中的に投資し将来性のある部署や商品に十分投資しない姿勢への危機感を示す人もいた。

また、回答者の三分の二が、現在進行中のR&Dプロジェクトのパフォーマンスをトラッキングする仕組みが整っていないと回答している。効果的なKPIを設定するなど、プロジェクトのパフォーマンスを測定するための仕組みを整備しない限り、工期延長や予算超過のリスクは高まり、リターンはさらに少なくなってしまう。さらには、大規模な投資決定は社内承認を得やすい一方で、不採算プロジェクトからの撤退は滅多に了承を得られないと答えた幹部もいた。

5. 自前主義脱却は始まっているが、スピードが不十分

圧倒的多数の企業にとって、新たなアイデアの創出や商品化を実現するイノベーションは、R&Dにおける大きな目標である。しかし、サーベイの回答企業の多くは、この領域における自社のR&D 組織の能力について悲観的な見解を示しており、画期的な新商品を十分生み出せていると答えた幹部はわずか30%であった。

「自前主義」でイノベーションを起こす時代は過去のものである。今日のイノベーションのほとんどは、研究機関やスタートアップ、技術コンサルタントなど、さまざまなステークホルダーとの協働によって生まれている。トップ企業は、これらのステークホルダーとのネットワーク作りに力を注いでおり、成長に欠かせないものとして捉えている。

新たな時代の潮流と適用の必要性は日本企業も強く認識しており、約半数のサーベイ回答者がイノベーションエコシステムの構築と活用を検討していると回答した。インタビューでは、適切な協業先を見つけることが難しく、パートナーシップ締結までたどり着けないとする声が聞かれたほか、イスラエルやシリコンバレーなどイノベーションの中心地にラボを構えたばかりで、ネットワークを活かして商品を生み出す段階には至っていないとする声もあった。また、協業先候補を評価し必要な契約手続きを進めるために手間や時間がかかるため、協業を進めにくいという声も聞かれた。

進むべき路

1. デジタルとアナリティクスを活用したR&Dの業務改革

R&D組織は、デジタルを活用した新しいアプローチを取り入れることで、さまざまな課題に対応できる。高度なシミュレーションシステムやジェネレーティブデザインのアルゴリズムなどのデジタルツールにより、効果的かつ効率的にR&D業務を推進できるようになる。デジタル通信技術により、チームや部門、協業先との情報共有が可能となる。また、デジタルやアナリティクスを強化することで、ポートフォリオを最適化し適切なリソース配分ができるようになる。加えて、生産性向上や商品化までの期間短縮を阻む要因を特定・解決するうえで不可欠となる各種データを整備することにも繋がる。

日本にはすでに240,000人の熟練したIT専門家が不足していると推定されています

某自動車メーカーでは、開発工期の最適化に向けてアドバンストアナリティクスを導入したことで、R&Dの各種活動と生産性との相関を初めて可視化することができた。同社はまず、プロジェクト計画書、タイムシート、CAD、Eメールやカレンダーなどを含むデータレイクを構築した。次に、開発工期の最適化に向けたさまざまな仮説を検証し、仮説の効果を定量化するための分析モデルを構築した。その結果、開発工期が約100日短縮された。例えば、車の各パーツのCADデザインを含むデジタルファイルが、ステージゲートを通過して仕様が固まった後に頻繁に変更されていたことが工期遅延の主要因となっていたことが判明した。また、メールの分析を通じて、各エンジニア間でのコミュニケーションにおける課題が特定された。

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日本企業はどのようにすればデジタル・アナリティクス変革を進めることができるのだろうか。そのためには、いわゆる基本的な「型」といえる、「課題解決に繋がるデジタルユースケースの特定」「組織全体でのビジョン策定」「最先端のテクノロジープラットフォームの導入」などを忠実に実行することがまず必要となる。しかし、日本企業にとってよりインパクトが大きいテーマは、「自前」でデジタル人材を育成することであると考えられる。

デジタル化改革の実現には、アナリティクスやソフトウェア開発、ユーザーエクスペリエンスデザインなどの新たな能力を構築する必要がある。また、高速データ処理を担うデータエンジニアや、分析手法やアルゴリズムの開発とデータからの洞察導出を担うデータサイエンティストも必要となる。そして、経営陣、開発チーム、データサイエンティストといった多様性の高いチームの橋渡しを行う「トランスレーター」も重要となる。トランスレーターは、ビジネス課題を分析課題に落とし込み、専門知識を活用してデジタルソリューションを評価し、継続的に改善していく。

多くの日本企業は、これまで、これらの新たに求められるようになってきたデジタルスキルを、ITベンダーに外部委託することで補完してきた。しかし、デジタルが単なるツールではなく意思決定の根幹・競争優位の源泉となっている昨今、経営層を含むデジタル人材の「内製化」は必須であり、それ無しでは経営の優先順位に合わせたデジタル変革は困難になる。

2. アジャイル手法の導入によるオペレーティングモデルの再構築

アジャイルの根幹は、「反復型サイクル」と呼ばれるもので、作業をプロセスで分けて端から作っていくのではなく、大枠を先に作ってしまい、フィードバックを受けながら徐々に中身を作り込んでいくというものである(図表 6)。

一見すると、アジャイルのスピード感や決まりごとのない自由なスタイルは、無秩序あるいは管理が不十分な印象を与える。しかし、実際には、アジャイルな組織は、標準化された安定したプロセスや体制、システムで品質や生産性を確保しつつ、柔軟性の高いダイナミックな能力も備えている。

アジャイルの安定性は、トップダウンでの戦略をアクションやタスクに落とし込んでいくことで担保される。このアプローチは、日本企業が日常的に行っている方針管理の考え方と類似しており、従来のリーンおよびTQM(総合的品質管理)の仕組みに基づいている。同様に、プロセスの標準化や反復可能性を重視するアジャイルのコンセプトも、リーン手法に依るところが大きい。

日本のR&D組織がアジャイルを取り入れるうえで課題となるのが組織体制である。アジャイルでは、8~10人の少人数のクロスファンクショナルチームが、一定の期間にわたり肩を並べて作業する。作業スピードは速く、見直しの間隔も短い。例えば、ソフトウェア開発では2週間おきにレビューと修正を行う。少ないレビューゲートで進捗を精査する日本企業のやり方とは全く異なるアプローチとなる。

アジャイル手法ではリーダー同士の綿密な協働が求められる。従来R&D幹部が行ってきたような緻密な計画策定やタスクの割り当て・管理は必要とされず、現場のエンジニアへの権限移譲やコーチング・進行の妨げとなる課題解決に幹部は尽力すべきである。伝統的にヒエラルキーが存在する日本のR&D組織の場合、リーダーシップのあり方を大きく転換することが重要となる。

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サーベイに回答した幹部の中には、ハードウェア開発にはアジャイル手法は適用できないのではないかと指摘する人もいた。複雑なハードウェアに携わっているR&Dチームの場合、アジャイル開発が特徴とする2~4週間単位の工期では十分な成果を出せないのではないかと心配する管理者もいる。しかし実際は、アジャイルを取り入れることで、部品設計のCADデザイン、技術的実現可能性に関する調査結果など、より付加価値の高い成果を短期間に得ることが可能となる。ハードウェアエンジニアリングへのアジャイルの導入は、シミュレーション技術やその他の仮想テスト・検証の活用など、商品開発プロセスのデジタル化を進めるための組織的な取り組みの一環として考えるべきである。

某航空宇宙メーカーは、ハードウェア開発にアジャイルを活用した。新型戦闘機開発においてモジュラーアーキテクチャを適用し、それに合わせて組織を設計した。これにより各チームの責任の明確化と独立性を確保するとともに、バーチャルシミュレーターに投資し、最新の設計オプションに関するフィードバックを短期間で行えるようにした。また、開発チームと同じ拠点にテストパイロットを置くことで、エンジニアとパイロットが密に連携をとりフィードバックを共有できる環境を整えた。これらの取り組みにより、開発・製造費を従来の半分以下に抑えることができた。

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3. EVP(従業員への訴求価値)の再定義

人口動態の変化や、新たなデジタル技術に関する専門的スキルを有する人材に対する需要の高まりなど、さまざまな要因により世界各地で人材獲得競争が激化している。世界トップレベルの人材管理システムを導入している企業は、人材を資本として捉え、将来最も大きな価値を創出する50の役職を特定し、人員を意図的に動かすといった先端的な取り組みを行っている。そして、データを業績評価、採用、育成、昇進・昇格に役立てている。

ダイバーシティを尊重した採用が多くの日本企業に求められているが、終身雇用や年功序列を謳う日本企業は、仕事の意義、自己成長、支援環境を重視するミレニアル世代の採用に苦労する傾向が見受けられる。より魅力的な職場環境を整備するためには、EVP(従業員への訴求価値)を再定義する必要がある。

図表8では、某大手ソフトウェア企業が、どのようにして自社が求める人材の要望や選好を把握し、それに合ったEVPを設計したかをまとめている。

日本企業には、伝統的に正式な職務記述書がなく、キャリアパスや人事評価基準があらかじめ定義されていないケースも見受けられる。しかし、イノベーションを起こすことができるような優秀な開発人材のキャリアパスを定義することは極めて重要である。開発の担当者から経営サイドに移行するためのキャリアパス、外部と連携したエコシステム構築に携わるためのキャリアパスなど、イノベーション創出に携わるハイスキルな開発人材のためのキャリアパスが、多くの日本企業で定義されていない。魅力的なキャリアパスや透明性が高い人事評価の仕組みを整えることは、ベストタレントの採用と育成において極めて重要である。

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4. 厳格なパフォーマンス管理の導入

R&Dは本質的に不確実性を伴うため、投資効果を保証することは非常に難しい。しかし、世界のベストプラクティス企業はそれを言い訳にせず、厳格なポートフォリオ管理を実施している。具体的には、ファクトベースでの意思決定を実現するためのデータ整備と、高頻度のレビュープロセスの導入、部門横断でのガバナンス体制による進捗・パフォーマンス管理が求められる。

某消費財メーカーは、新商品開発に競合の2倍の期間を要していたうえに、R&Dチームは1人で5つ以上の案件を同時に進めざるを得ない状況にあった。そこで同社の幹部は、各商品開発案件にかかる予算と、投資によって得られるNPV(正味現在価値)を検証したところ、案件の半数以上のNPVがゼロに近いという衝撃的な結果を得た。案件を即座に中止し資源の再配分を行った結果、同社は将来性の高いイノベーションの種にしっかりと投資できるようになった。

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厳格なパフォーマンス管理により、R&D組織の生産性を大幅に向上させることができる。某大手自動車メーカーは、「コスト」、「品質」、「リードタイム」の観点からすべてのエンジニアリングチームを評価するために、7つのKPIを導入した。そして、これらの指標に基づいてR&D組織で最もパフォーマンスの高いチームを特定し分析することで、ベストプラクティスを特定した。例えば、プロジェクトに関わるすべてのエンジニアが集まり一緒に作業するための専用の作業スペースを設けた。これにより、チームメンバー間の連携が容易になり、ホワイトボードや壁に掲示されたプロジェクトの進行表も確認しやすくなった。もう一つのベストプラクティスとしては、チーム内外の顧客と密な関係を構築することで、エンジニアはより明確にプロジェクトのスコープを描けるようになったことが挙げられる。

多くの日本企業に不足しているのは、データの整備・活用と、データを用いたファクトベースでの意思決定である。デジタル変革と合わせてポートフォリオ管理を推進することで、バイアスを排除し的確な判断を下せるようになり、経営の優先順位に合わせたデジタル変革とリソース配分を行えるようになる。

5. 自前主義の早期脱却によるオープンエコシステムの構築

イノベーションを加速させるにあたっては、自社R&D部門の組織改革から、補完的な能力を持つ組織の買収に至るまで、さまざまなオプションが存在する(図表 9)。

製薬業界では、新薬の開発段階から外部と協業している企業の成功確率は、単独で取り組む場合の2倍以上となっている。欧米の製薬会社は、ライセンスインやアセットの買収といった従来の協業アプローチにとどまらず、パートナーを積極的に巻き込んで独自のイノベーションエコシステムを構築している。しかし、日本ではこのような動きはまだそれほど広がっておらず、海外のライバル企業に比べバイオテクノロジー企業にライセンスアウトしている企業は少ない。

新しい製品やサービスを生み出す効果的な方法の一つとして「イノベーション・ガレージ」が挙げられる。デザイン思考やアジャイル思考を取り入れる上で障壁となりやすい、製品開発における「組織文化」を短期間で変え成果を実感する上で、イノベーション・ガレージは非常に有効な手段である。まず、コンセプト設計から実際の開発までのエンド・ツー・エンドの実験を行えるスペース・設備を用意し、関連する部門横断のチームを組成する。ここに、デザイン思考のコアとなる、エスノグラフィー(消費者を詳細に観察することで課題やニーズを特定する手法)、カスタマージャーニーといった開発手法を取り入れ、通常の開発プロセスでは短期間で得られにくいインプットを取得し、チームの思考の幅を広げると同時に、探究心を刺激していく。アイデア出し・実験・商品化のプロセスを部門横断チームで高速で回していくことで、顧客ニーズの捕捉や、外部ステークホルダーとの連携、最先端の技術の導入、短期間でのアイデア創出などの開発の根幹業務を、非常に短いサイクルで行うことが可能となる。そして、イノベーション・ガレージの手法とベネフィットを理解した参加者が、各々の部門の文化を変えていくインフルエンサーとなっていく。

例えば日本の某食品メーカーでは、ブランドの定義、食品形態、包装、フレーバーを含め、新商品を試作するためにイノベーション・ガレージを立ち上げた。同社は、わずか5週間で、エスノグラフィー調査、ワークショップ、ブランドコンセプト立案、顧客テストと改良を実施し、5つの新しいブランドコンセプトと試作品を生み出すことに成功した。


卓越したR&D組織を作り上げるためには、開発プロセス・組織設計だけでなく、デジタルの活用、人材の採用・育成をはじめとした、極めて複雑な課題解決が求められる。

R&Dの生産性改革に向けた一丁目一番地は、現時点での強みと改善領域を客観的かつ詳細に把握することである。企業は、R&Dポートフォリオ策定のための指標管理、開発プロセスの加速に向けたボトルネック特定、デジタル・アナリティクスの導入など、経営に直結するR&Dテーマに対し、自社の立ち位置を客観的に認識する必要がある。実際、マッキンゼーにも客観的な強みと改善領域を特定するための診断の依頼を数多くいただいている。

多くの日本企業が喫緊の課題と位置づけるR&Dの生産性改善であるが、自社の改善領域に対して新たなアプローチを取り込んでいくことでその実現は十分に可能であるのみならず、本来日本企業が有する強みを活かしていくことで、市場で優位なポジションを築くことができるだろう。

Download “A new era for industrial R&D in Japan” in Japanese (PDF–3MB) or in English (PDF–1MB).

著者について

アンドレ ロシャ、小田原 浩、クリストフ サンドラー、一寸木 俊、津田 拓也は日本支社のコンサルタントであり、オペレーションおよび製品開発研究グループのリーダー・コアメンバーである。

本稿の作成にあたり、以下のものに感謝の意を表する。林 香菜子、Christian Johnson、川崎 雅史、 北浦 ひな子、Dominik Luczak、Robert Mathis、村垣 美奈子、鍋島 憲司、野木 嘉人、住川 武人、立花 良二、土谷 大、David Veitch、Christina Wang、Jonathan Ward、山科 拓也、Bo Yang、およびマッキンゼーの各サポートファンクションチーム。